「認知症をにんちしよう会」の会長を務める 武井 和夫さん 小田原市板橋在住 50歳
包み込むそよ風のごとく
○…認知症でも住み慣れた地域で安心して過ごすことができる――。そんな社会実現に向け、医療や介護、福祉関係者らと発足させた「認知症をにんちしよう会」の活動も5年目に突入した。「誰でも年をとれば色々な機能が失われる。認知症だけが特別ではないのに、いまだネガティブな印象が強い」。6月23日に小田原市内で開催するフォーラムで認知症との付き合い方を当事者に講演してもらうのも、偏見を払拭したいとの思いからだ。
○…バスケットボール部に所属していた白山中時代には市内で3位入賞。陸上でも学校代表として大会に出場するなど運動神経抜群で、夢はスポーツ選手になることだった。その頃、小田原市立病院の勤務医だった父が夜中でも呼び出されて家を飛び出していく姿に、「なんて大変なのだろう」と感じていた医師の仕事。だが、当時住んでいた職員宿舎には退院患者が御礼を伝えに訪れることも多く、喜びを分かち合う光景を目にするうちに医学の道を志すようになった。
○…専門は神経内科。限られた時間で、いかに症状を聞き出せるかが重要という。話かけたくなる穏やかな表情も、安心感を与えるゆったりした口調も、長年の経験で培われたものか。だが、家では「話さないタイプ」。「家族のことだと考えすぎて何も言えない。子育ても妻にまかせっきり」と頭をかく。妻と娘2人の家族で、唯一の同性である愛犬の散歩が癒しだ。
○…午前中の診察を終えると、昼休み返上で訪問診療へ向かう日々。潮騒が届く国府津の診療所に入院施設はなく、退院患者と喜びを分かち合う瞬間を味わうことはないが、「患者さんの一番近くで寄り添い、亡くなったとしても『ありがとう』と言ってもらえる仕事をしたい」。その一言に、すべてが凝縮されている。
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