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｢持続可能な地域社会へ〜賢明な選択を〜｣
前小田原市長　加藤憲一

　小田原市長を退任してから、早くも３度目の春を迎えようとしています。お世話になった市民の皆さんに一市民としての実践の日々を報告しつつ、統一地方選を控え前市長として思うところを記します。

近況報告

　現在の活動は大きく五つ。【1】城山の畑での自給農、【2】小田原柑橘倶楽部として取り組む無農薬有機レモン栽培、【3】大勢の皆さんと共に荒地を拓いて進める小田原初のワイン葡萄栽培、【4】星槎国際高校・神奈川大学・立教大学・関東学院大学での講義、【5】「いのちを守り育てる地域自給圏」を目指す広域での絆づくり。山野に行ったり都会に出かけたり、カラダを使ったりアタマをひねったりの、限られた時間をなんとかやり繰りする日々も、今やすっかり体に馴染んできました。

　その中では、ワイン葡萄「メイヴ」が健やかに育ち初のワインボトル56本に結実したことや、神奈川大学の学生たちと曽我地区を対象に「小学校と地域が共存する地域デザイン」についての貴重な研究をさせて頂いたことなど、数多くの嬉しい出来事や成果がありました。大地をベースにリアルな実践を進めることで、様々な人たちとの交流は広がり、絆が深まる日々です。

重要な市議選

　この春は４年に一度の統一地方選。小田原市では市議会議員と県議会議員の改選が行われます。市行政の在り方に決定的な影響を及ぼす市議会の改選は、特に重要です。

　現在の市議会は、現市長を支援する議員が多数を占めているため、執行部が提案する議案や予算案はほぼフリーパス。本来、事業や施策の目的、裏付けとなる財源の適否、進め方の手法などが厳しくチェックされ、良いものは進め、問題があればストップをかけるのが議会の役割。私が見るところ、現在はそうした機能が著しく低下しています。

　先日の神奈川新聞で詳報されましたが、最近の地方議会では首長に異議をぶつける少数派の議員が難しい立場に追い込まれるケースが見られます。市民感覚に立って様々な市政課題をオープンに議論し、行政の健全化・適正化を目指すのが、本来の議会の姿。今回の選挙を通じて、そうした在り方を是とする人たちに多く議席を得てほしいと思います。

何を問うべきか

　市議会の在り方以前に、小田原市政を巡る状況はどうでしょうか？

　私たちを取り巻く現下の時代と社会は、これまで遭遇したことのない難しい局面にあります。人口減少、少子化・生産世代減少・高齢化、社会保障費用の膨張、一次産業の担い手激減、地域経済の衰退、地域コミュニティの希薄化、気候変動の影響、災害の大型化・頻発化、各種社会インフラの老朽化、公共部門の財政悪化・・・。

　加えて、コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻は、「グローバル」に依存する経済や暮らしの危うさ、とりわけ資源自給の必要性を強く認識させるに至りました。私たちの命を守り支えるためには、自国の中で、更には身近な地域で、食糧・資源・エネルギー・ケアなどの確保を目指すことが重要なのです。

　こうした難局においては、国の動きを待ったり、「次世代への借金」である国債が財源の各種補助金をあてにするのではなく、各地方都市はできるだけ自立を目指し、持てる地域資源を活かしきって、持続可能な地域社会を創るべきです。

　私の在任中に取り組みを進めた再エネやＳＤＧｓ、地域循環共生圏の路線は、現市政でも発展的に引き継がれ、過日「脱炭素先行地域」にようやく選定されたようですし、若者の活躍や移住を進めるなど、評価すべき政策もあります。一方で、「ケアタウン」「地域コミュニティ」「市民力と協働」などの言葉が市政の表面から姿を消しており、市民生活に密接な分野の取り組みについては手薄になっている感が否めません。今こそ自然・人・地域の力を手厚く育て、分かち合いの社会を目指すときです。

賢明な選択を

　旧統一教会との接点の問題、市立病院の建設事業者との事前接触など、市政の不透明な部分についての説明も不十分なようです。こうした市政の状況を、市民の感覚で明るく正していくことは、市議会の重要な役割だと思うのです。

　全国では「地方議員のなり手不足」が問題視されている中、幸い小田原市では定数を大きく超える立候補者が見込まれ、志を掲げて新たに立ち上がる人たちも大勢います。時代と社会の危機的状況を正しく捉え、市民の目線と感覚に立ち、市民と共に歩む市議会・市行政となるよう、次世代への責務としても賢明な選択をしたいものです。