緑区 文化
公開日:2025.10.02
霧が丘・理容すぎむら
親の背中を追い3世代で
「小さくなっちゃったけど」
霧が丘にある「理容すぎむら」は親子孫の3世代で営業している市内でも珍しい理容室。杉村きよ子さん(77)が55年ほど前に夫婦で創業し、親の背中を見て育った光彦さん(54)、そして孫の広大さん(29)も理容師を志し、現在は同じ店舗で働いている。訪れると、親子孫の仲睦まじい会話の掛け合いがアットホームな居心地の良さを感じさせる。世代を超えて地域に愛される理由は、カットの腕前はもちろん、友達の家に遊びに行く感覚で訪問できる気軽さにあるのだろうか。営業が終わった後に3人を取材をしてみた。
現在、代表を務めているのは光彦さん。小学生のときには既に、文集に「理容師になる」と夢を書き残していたという。「親の背中を見て育ちましたから」。中学3年生のときに父が亡くなり、理容室を閉業する選択肢もあったというが、光彦さんの「自分がやる」という宣言もあり、きよ子さんは営業を続けた。息子が理容師として自立して店舗を引き継ぐまで、1人で育て上げた。「大きな背中だった」と光彦さんが当時を懐古すると、照れ臭ささを感じたのかきよ子さんは「背中、小さくなっちゃったけど」と笑いを誘う。カラッとした明るさが場を和ませる。
地域に元気を届ける
広大さんが同店で働き始めたのは1年半ほど前。「広大が帰ってくるので、気合いを入れるぞ」と昨年2月に店舗をリニューアルした。3世代で営業することで、幅広い年齢の人が利用するようになったという。広大さんは穏やかで親しみやすい性格。「『近所のお兄さん』として思ってもらえれば」と言い、実際に高校・大学生の恋愛相談を受けたり、一人地方から引っ越してきた若者の話し相手になったりしているという。「僕たちはお客さんと第3者以上に離れている。離れているからこそ、逆に話しやすいこともあるのかな」と広大さん。まずは自己開示をと、同店のInstagramでは営業情報以上に私的な旅行や家庭菜園のことなど趣味の発信に力を入れている。
「3人でやっているから外に出られるようになった」ときよ子さん。遊びに出かけるのではなく、向かう先は地域の老人ホーム。出張で利用者の散髪をしている。店舗が休みの日も呼ばれたら行く。「仕事が楽しい。趣味になっちゃってるから仕方がない。これで生活をしてきたから社会貢献していかないと、とも思ったり」。寝たきりで外出ができない人も、髪を切ると気分が晴れて喜んでくれるという。「いつまでできるかな」と口を開けて元気に笑う。
三者三様の気取らないキャラクターで、いつでも温かく迎え入れてくれる安心感がある。取材中にも、店舗の前を通った親子がこちらに向かって手を振ると、光彦さんは外へ駆け出していった。本人たちの楽しむ姿が地域に元気を与え、地域になくてはならない景色の一部になっている。
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