金小創立140周年祝賀会でマグロの解体を行った、水産庁職員 上田 勝彦さん 平潟町在住 49歳
魚文化に再び光を
○…白の長靴が玄関に揃えて置いてある。国家公務員に転身した元漁師の使命は、魚食文化の再興。「呼ばれればどこにでも行く」。全国各地を駆け巡り、トークと実演で「魚の魅力」を伝える。3人の子どもが通う金沢小学校の創立140周年記念祝賀会でも、30kgのメバチマグロを解体し、漁業の現状を訴えた。
○…島根県生まれ。水たまりを覗いて歩くほど、水とそこに住む生物に夢中だった。小学3年で海釣りを経験した少年は、2年後には釣ったマダイをさばくように。「理論より先にまずやってみる」が信念。高校では寿司屋で働きながら水槽を購入。魚を飼育し文献も読み漁った。潜って、泳いで「魚」を体得していく。
○…研究者を目指し長崎大学水産学部に入学したのも束の間、乗り込んだのは漁船だった。「自分は魚と関わる人々に興味があるんじゃないか」。それから7年間、各地の漁船に乗り漁業の現場を肌で感じてきた。高齢化や後継者不足にあえぐ漁師の姿を目の当たりにした頃、仲間の一言で大きく舵を切り替えることになる。「お前は学校を出てるんだから中央に漁師の声を伝えてこい」―。
○…28歳で水産庁に入庁。漁業紛争調査や調査捕鯨、マグロ漁場開発など役人になっても現場中心。漁師や販売者、消費者と向き合ってきた。それでも魚離れは進み続ける。「消費者に響くように伝えなければ」。漁師を支えるのは魚を食べてくれる人―。失われた魚への興味を取り戻す人生をかけた旅が始まった。
○…「日本は海から得る恵みがたくさんある。食べなくなれば自立性のない国になってしまう」と危機感を募らせる。漁港を回っては「活け締め」の技術や販売方法を教え、学校や市場では自ら包丁を持って料理教室を開く。「日本人がやっぱり魚だと思えるように魚の魅力を伝えたい」。魚を見、聞き、触り、食べる―魚を知り尽くした男が魚文化復活を仕掛けていく。
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