物語でめぐる金沢 『四千万歩の男 (四)』(井上ひさし著 講談社文庫)文・協力/金沢図書館
地球1周分=約4万キロを歩いて全国を測量し、「大日本沿海輿地全図」を完成させた伊能忠敬。日本史上はじめて国土の正確な姿を明らかにした功績は偉大です。しかも、50歳を過ぎ生業を引退した後に志した事業だというから驚きます。
その足跡を、軽妙洒脱な読み物に仕上げたのがこの長編小説。文庫版全五巻の大著です。前半は蝦夷地への旅が綴られ、4巻からの「伊豆編」で、忠敬一行の旅の途上に現在の金沢区各所が登場。しかも杉田梅林で起きた殺人事件の犯人を突きとめるというミステリー仕立てになっています。その章の名が「金沢八景殺人事件」です。
江戸を発った忠敬一行は保土ケ谷宿で宿泊後、根岸・滝頭・屏風浦・杉田・富岡と道を急ぎ、金沢道町屋村の組頭の屋敷に到着します。忠敬は御公儀測量方として、洲崎村・野嶋・泥亀新田・瀬戸明神・六浦…と測量作業に取り組みます。一方で、杉田梅林で起きた殺人事件に隠された秘密を探ることとなり、同心さながらに事件の真相に迫っていくのです。当時流行していた俳諧の世界の勢力争いや、貸本や版元をめぐる様々なできごとを織り交ぜて、物語が展開します。
長い道中には十返舎一九や葛飾北斎など同時代の有名人も次々に登場し、忠敬と少なからぬ関わりを持つのにも興味をそそられます。作者が膨大な資料をしっかり読み込んだ上で練り上げた虚々実々のエンターテインメント世界。しかも金沢区をよく知る読者には、親しい地名が続くロードムービーの趣きがあり、往時の風景を思い浮かべながら楽しめる一冊です。
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