「どうして覚えられないのかとイラつく時もあるけれど、やめようと思ったことはない。ピアノの音色が大好きだから」―。
丸山台の音楽教室「上永谷ミュージックセンター」に通う百瀬閑子(しずこ)さん(82歳)。子どもが独立して時間に余裕が生まれたのを機に63歳でピアノを習い始め、まもなく20年になる。
ちょうど太平洋戦争の真っただ中で育った少女時代。「音楽的に非常に貧しい生活。歌といえば兵隊を戦地に送るためのものばかりで」。母の小波(さなみ)さんはピアノを弾き、周囲に手ほどきするほどの腕前だったが「親が子どもに教えると感情的になるから」と、指導してくれることはなかった。それでも、物心ついた頃からピアノの音色に囲まれた生活を送ってきたこともあり、大人になって子育てや家事に追われながらも「いつか弾いてみたい」と思い続けていたという。
目下練習に励んでいるのはショパンの「ソステヌート」。先生から教わったことすべてを赤鉛筆で記した楽譜は真っ赤に染まり、「お稽古しなかった日があると寝床で申し訳ない気持ちになって、明日は頑張らなきゃと思う」と熱心だ。
10年以上連続参加してきた教室の発表会は、「暗譜でなければいけないのだけれど、記憶力が衰えてもう自信がない」と最近は辞退している。「途端に舞い上がってしまう」と他人に聴かせることもないが、「よその家から音色が聞こえてくるだけでも嬉しくなる」というピアノに1人向かう時間が至福のひとときだ。
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