保土ケ谷区 コラム
公開日:2023.08.24
日蓮宗樹源寺 権住職 日比(ヒビ)宣仁(センジン) 連載28
法話箋 〜鹿苑〜
「呪文―密教の萌芽(ほうが)―」
古代インドの密林には毒虫や毒蛇が溢れていました。しかし、人々は日常的に密林に入らざるを得ない環境に身を置いていました。彼らは、密林に入った時、自らの身体を護る呪文を大きな声で唱えればそれらの生物は寄ってこないと信じていました。この呪文を護呪(ごじゅ)(paritta)と呼びます。釈迦は弟子に自分が幸運になることを狙った呪文や、他人を呪うような呪文を禁じましたが、護呪を唱えることは許しました。ここに悟りを目指す仏教思想と、呪文思想の融合があると言えます。このような融合は後代に受け継がれ、密教となりました。日本では『大般若波羅蜜多経(だいはんにゃはらみったきょう)』や『法華経(ほけきょう)』を声高らかに読誦することで災から身を守るという考え方が浸透し、年末年始には各地の寺で祈祷がなされます。毒虫から身を守る呪文は、いつしか生活を豊かにし、現世で悟りに至ることを願う祈りの呪文へと変容したのです。
【参考資料】松永有慶『密教』(岩波新書・一九九一年)
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