読者からの便り 区内を巡る紙芝居の記憶
「誰か知っている人がいるかもしれない。思い出の種になれば」――5月初旬、そんな気持ちから文章を寄せたいと編集室に便りが届いた。申し出たのは、現在旭区在住で80年以上前に生麦近くに住んでいたという里見了さん(91)。
思い出は、80数年前、潮田などから生麦まで区内を巡っていたという紙芝居の記憶だ。※本文は原文まま
漫画オモちゃんの想い出寄稿・里見 了
今から八十数年前のことです。鶴見区生麦町のはずれ(神奈川区寄り)のことです。
夕方四時頃になると「チャキ・チャキ……」と、拍子木の音が遠くから鳴り響き、「オモちゃんが来た」と、母から一銭をもらい、早速列に並ぶ。一銭で割箸二本付きの水飴をもらう。
私は、小学校低学年でもあり、隣町(子安通り三丁目)から来ての子供で、前列には行けず、少々遠慮し後ろの方で背伸びしながら観たものです。
◇ ◇ ◇
いよいよ紙芝居が始まる、その前、必ずおじさんが「ドドン」と小さな太鼓を鳴らし、全員で「まんがオモちゃん!」と合唱するのですが、声が小さいと再度やり直しで、大きな声で叫び、始まるのです。
一巻目は漫画の「ガンちゃん」、二巻目は「オモちゃん」、三巻目が私の好きな「まぼろし城」でして、お城の強く若い青年が、悪者を倒すところに子供ながらに感動したのです。
おじさんは、最後に決まって青年が悪者に攻められ危険なところで、「それでは又、明日のお楽しみ」と言って、いいところで終わる「まぼろし城」が楽しみで、おもちゃんが来るのが楽しみであった。
おじさんの顔は、恐いがとてもやさしい人で、他の子が「この子、只見だよ」とおじさんに言いつけるが、おじさんは、その子を「前においで」と言って、紙芝居を見せてやった。
◇ ◇ ◇
話は変わりますが、京浜急行花月園前駅(現在の花月総持寺駅)近くに映画館が二館あり、駅近くに千代田館があり、鶴見線国道駅前に菊水館があった。
ある日、兄二人に連れられ千代田館に行った。中に入ると、トイレの匂いと煙草の匂い、客席には「おせんべいにラムネ」「キャラメルにおせんべー」と売り歩く人がいた。
映画も途中にフィルムが切れることもあれば、館内は真っ暗になり、「ピーピーピー」と指笛やらヤジで物凄かった。
当時は、無声映画だったので、活動写真の弁士が役者の口に合わせて喋るのだったが、弁士の声がとてもオモちゃんのおじさんの声に似ていた。阪妻(阪東妻三郎)が、親の助太刀に行くところは、紙芝居の拍子木で板の間を物凄い音で連打し、迫力があった。やっぱり、漫画おもちゃんは、活動写真の弁士だったのだ。
映画館の入場料金は、大人十二銭位で、子供七銭? 私は兄の間に入って無料でした。
私がいつか話したかったことなので、何人か記憶のある方もおられると思います。
今年九十二歳になるお爺さんです。
※ ※ ※
里見さんの話では、漫画オモちゃんは、鶴見一帯を回っていたという。小学2年から4年生ごろというため、84年前くらいのこと。
天気のいい日は毎日来ていたという紙芝居のこと、覚えている人はいるだろうか。
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