高津区 文化
公開日:2026.09.18
本紙・名物コラムとして1000回以上の連載 「高津物語」で日々をより豊かに、誇り高く 著者の息子、鈴木淳氏が書籍閲覧を呼び掛け
高津区の街並みや風景は、時代とともに姿を変えていく。真新しいビルが立ち並び、道が整備されていく一方で、かつてそこにあったはずの原風景は、少しずつ人々の記憶の彼方へと霞んでいくものである。しかし、失われてゆく郷土の姿を言葉によって留め、次代へ繋ごうと情熱を注ぎ続けた人物がいる。高津区文化協会の名誉会長を務める鈴木穆(あつし)氏である。
いまからちょうど30年前の1996年、「タウンニュース高津区版」の創刊と同時に産声を上げた連載コラム「高津物語」。それから2019年の最終回(第1085回)に至るまで、じつに四半世紀近くもの間、一度の休載もなく紙面を飾り続けた伝説的ともいえる名物コーナーである。
地名の奥深い由来、かつて人々が行き交い賑わいを見せた街道の情景、凄惨な戦時中の記憶、そして地域を揺るがした事件の数々。穆氏は、それら郷土の変遷を独自の温かな物語調で克明に描き出し、読者を惹きつけてやまなかった。
書籍化、そして重版へ
連載当時から、その郷土資料としての価値の高さは際立っていた。地域住民や教育関係者からは「手元に置いて何度でも読み返したい」「地域の歴史を知らない子どもたちに伝えたい」といった熱烈な声が絶えず寄せられていたという。こうした声に応える形でまとめられたのが、上・中・下の3分冊、総ページ数およそ800にも及ぶ書籍版『高津物語』である。そして今年3月、長らく待ち望まれていた重版が実現した。現在、大山街道ふるさと館などで手に取ることができる(1冊2200円・税込)。
「継承の重要性」再確認
この重版を機に、残された膨大な足跡と改めて向き合っているのが、穆氏の息子であり俳優の鈴木淳氏である。淳氏は、書籍を改めて手に取り、次のように語っている。「タウンニュースに連載していた当時はその価値を十分に理解しきれていなかったが、重版を機に読み返し、そこに刻まれた情熱と継承の大切さを実感した」。父が、一つひとつの言葉を紡ぎ、積み上げてきた記録の重みは、単なる過去の出来事の羅列ではなく、未来を生きる人々へのメッセージでもあるのだろう。
記憶を次代へつなぐため
淳氏はさらに言葉を継ぐ。「書籍には、凄惨な戦争の記憶や、今は失われた街の風景も記されている。過去からの声を受け取った私たちは、そこから何を学び、現代においてどう行動に移していくのかが大切」。現在、淳氏は父の遺志を継ぐ新たな試みとして、地域に根ざした場所での「朗読会」や、書籍に記された足跡を実際に辿りながら街の移り変わりを肌で感じる「街歩きツアー」といった構想を描いている。「父が情熱を注いで記した郷土の記憶を、どう次代へ繋ぐべきか、パートナーの知恵なども借りながら、模索し続けたい」。そう語る淳氏の眼差しは、しっかりと未来を見据えている。
◇ ◇ ◇
シニア世代のタウンニュース読者にとって、『高津物語』に綴られている情景の数々は、それぞれが歩んできた人生や懐かしい記憶と深く重なり合うはずである。激動の時代を乗り越える中で、私たちが何を失い、何を守ってきたのか。その答えの糸口が、この一冊には詰まっている。淳氏は「ただ昔を懐かしむだけではなく、自らが暮らす地域の成り立ちを知ることで、これからの日々をより豊かに、誇り高く生きるための原動力にしてもらえれば」と閲覧を呼び掛ける。
かつての高津区の風を感じながら、この重厚な物語のページをめくってみてはいかがだろうか。そこには、忘れかけていた大切な記憶が、色褪せることなく息づいているに違いない。
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