日本民家園などでわら細工の伝承に尽力している 荒川 美津三さん 川崎区在住 86歳
覚えている限りを残したい
○…日本民家園の「民具製作技術保存会」会員として活動し、数々の作品を作りながら他の会員にその技術を伝承している。自身の地元である桜本2丁目町内会館で行われる恒例の「しめ飾り」作りでも、中心的存在として、手取り足取り熱心に指導する。「2丁目の誇り。こんな人が地域にいるなんて」とは周囲の評。自宅の一角に構える3畳ほどのアトリエには、蓑や背中当て、草履、雪靴、猫つぐら等、数々の作品が並ぶ。
○…宮城県出身。農家の生まれで、男5人、女3人の8人兄弟のうちの5男。子どもの頃、農閑期に皆で集って手で縄をない、厳しい冬の必需品である履物や被り物を編みあげるのは当たり前で、わら細工とともにあった少年時代だった。20代前半で、市内の石油精製会社に就職。倉庫番として務めたのち、プロパンガスの販売職に就いた。75歳まで職を全うし、退職後にたまたま訪れた民家園で「わら細工グループ」と出会った。毎年しめ縄作りは欠かさなかったため完全に離れてはいなかったものの、入会してからは少年時代を思い起こしながら、夢中で作品作りに没頭した。
○…その腕前は、京都の太秦から映画関係者が教えを請い、千葉の佐倉から国立歴史民俗博物館の学芸員が技術を学びにアトリエに来るほど。だが、自身も技術向上に余念がない。昨年は十二支のわら細工を作る名人がいると聞きつけ、妙高高原まで習いに行った。「まだまだ若いよ。引退してゴロゴロしようなんて思わないからね」。
○…あす12月5日には、銀座三越で現在開催されている各地の正月しめ飾り展で、しめ飾り作りの実演をする。「イグサで編んだお手製の背負子をしょって、わらを手に持って銀座の街を歩くんだ」と、少年のような笑みをこぼす。「自分が覚えている限りのわら細工を、形にして残しておきたい」。これからも人生の多くの時間をアトリエで過ごすつもりだ。
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3月29日