８月27日の昼下がり、社会福祉法人相模福祉村が運営する障害者支援施設「たんぽぽの家」（中央区田名）を訪問する一団があった。訪れたのは、近隣にある相模田名高校（都丸利幸校長）の女子バスケットボール部員。「施設の方々にお礼がしたいんです」。理由は、施設職員による毎朝の清掃活動。同部の松岡柚部長（３年）は、「感謝の気持ちを伝えたかった。そうしたら、私たちも笑顔になれた」と微笑んだ。



　相模田名高校では、落ち葉拾いや校舎の清掃、駐輪指導といった学校生活の環境改善活動を、各運動部員が分担して自主的に行っている。そして、２月末までは、学校周辺の清掃も運動部が担っていた。



　ところが、新型コロナウイルス感染症対策のため県立校は３月から突然休校に。当然、それまで取り組んできた清掃もストップし、生徒は部活動はおろか学校にさえ行かれない日々が続いた。



　一方、「社会福祉法人の在り方」として、従来から地域貢献に力を入れてきた相模福祉村では、たんぽぽの家の職員による就業前の清掃活動が日課とされ、防犯や交通安全へも意識を向けながら毎日早朝７、８人でほうきやちりとりを手に施設周辺の環境美化に励んでいた。「挨拶など、生徒さんとの交流もあり、活動は学校教育の一助にもなっていると感じている」と同校の学校評議員も務める同法人の赤間源太郎理事長は語る。



　そうした中、このコロナ禍で地域から学生が忽然といなくなった。休校中も、同施設の清掃活動は変わらず続けられた。



「お礼したい」仲間も賛同



　学校は６月に再開したが、感染を防ぐための分散登校や時差通学が実施されたこともあり、生徒と施設職員との接点はほぼ持たれなかった。そんなある日、清掃する施設職員と接する機会があった女子バスケットボール部顧問の黒川勝則教諭（60）が、日頃の謝意を伝えた。そして、８月下旬の夏休み明けに、そのことを何気なく松岡部長とキャプテンの高橋優衣さん（３年）に話した。



　話を聞いた松岡部長は、「知らなかった。コロナで落ち込んでいる中で学校に行くと、周りがきれいになっていて気持ちよく登校できた。先生から清掃の話を聞き、施設の方々にお礼がしたいと思った」と、すぐに仲間に相談。すると、その事実を知らなかった他の部員もすぐに賛同した。翌々日、部活動が休みの木曜日に、全部員15人で施設を訪ねた。



　「コロナ禍なので、施設に入るのは無理だろうと思った。だから最初は施設の周りを掃除して帰ろうと思っていた」と松岡部長。だが施設側は感染防止対策を講じつつ、中に招き入れてくれた。とっさのことで何をしようかと考えた末、９月24日の体育祭で３年全員で踊るために練習していたダンスを披露することに。携帯電話から音楽を流し、施設に借りたスピーカーへ無線でつないだ。１、２年生は手拍子などで場を盛り立てた。そして最後に全員で校歌を歌唱。施設職員や利用者は手拍子で応え、部員にも笑みが溢れた。「利用者さんが『お礼を言いたい』と何人も手を挙げて『ありがとう』と言ってくれた。私たちもうれしかった。楽しんでもらえたと思う」と笑顔で振り返る松岡部長。黒川教諭は「この学校は地域から愛されていると感じる。今回はそれをお返ししたくて学校全体がお礼を言いたかった。彼女たちがまず最初に言ってくれた」と目を細めた。赤間理事長は生徒の行動に「若い学生がこうして施設に来てくれたのはうれしい。地域の方に気持ちよく生活していただきたいと行っている取り組みに成果があったことは私たちとしてもよかった。引き続き法人各施設で地域貢献に努めていきたいと実感した」と話した。



またバスケ頑張れる



　同部は県上位にもたびたび顔を出す強豪だ。今夏は関東大会出場を目標にしていたが、高校総体など大会が次々と中止に。「高校を最後に、バスケはもうやらないと思っていた。このまま大会がなくなっちゃうと思うと、もっと練習をしておけばよかったと後悔した」と高橋さんは話す。そんな中で現在は、開催が決まった高校バスケの一大大会「ウインターカップ」の北支部大会に向け、日々練習に励んでいる。冬の全国へ進めるのは県から２校。負ければ３年は引退だ。チーム競技なのに一人で練習するしかなかった休校中。部員たちは「ＬＩＮＥ」で互いの練習メニューを確認、助言し合った。「この大会があると聞き、一から頑張ろうという気持ちになった」と意気込む高橋さん。自分たちの集大成を飾るとともに、地域への感謝をプレーでも見せる。