相模原商工会議所の男性職員が昨年９月から今年７月まで、およそ１年間の育児休業を取得した。取得をしたのは、経営支援課の井上雄介さん（35）。同会議所での男性職員による育休取得は制度が始まって以来、今回の井上さんが初めて。この１年を振り返ってもらった。

キャリア中断も

　国の育児休業の制度は、子が１歳（一定の場合は、最長で２歳）に達するまで、申し出により取得が可能。父母ともに育児休業を取得する場合、子が１歳２カ月に達するまでの間に、１年まで休業することが可能となっている（厚生労働省ＨＰ参照）。

　井上さんは２０１１年に同会議所へ入所。19年に結婚し21年８月、第一子を授かった。今回、制度を利用し同年９月から今年７月まで育休を取得した。

　結婚する前の井上さんは育児休業について「良い制度。やはり日本は先進国」と肯定的に捉える一方、日常の業務で経営者らと対応している中で「会社側は大変だろう」と思っていたそう。

　母親は専業主婦だったが、父親は会社員ながら「家を手伝うタイプ」で、井上さんはもともと「家事は共同でする必要がある」という認識だった。それは一般企業で働く妻も同じで、子どもが生まれた際、夫が育休をとることに違和感はなく、むしろ「当然のこと」とも考えていた。

　上司には妻が安定期に入ったタイミングで伝えた。「一緒に調整しよう」と「男性初の取得」の試みに、会議所として前向きに対応してくれた。同僚からは「おめでとう。仕事を分担しよう」と声をかけられた。世間で男性の育休取得がなかなか進まない理由のひとつとして「キャリアが中断」してしまうことがあげられているが、それについて井上さんは「当然マイナスな面もあるが、それが育休をとらない理由にはならない」ときっぱり話す。今回育休を取得した最大の動機は「自分が育児に参加したかった」ことだ。

　21年８月４日、無事に長女が誕生し、９月１日から育児休業が始まった。「生まれたての頃は、朝から夜まで自分の食事もトイレも後回し」と、忙しさをそう表現する。井上さんは当初、家事とは「家庭というプロジェクトを共同経営するイメージ」で、役割分担の上、「分業」をする想定だった。一方、妻の考えは「一緒にやる。気がついた人がやる」。その上で井上さんはこれまでの商工会議所での実務経験から「共同経営の難しさをわかっていたので」と笑いつつ「自分は早い段階で『妻の子分』になることにしました」と照れくさそうに明かした。

　１人暮らしの経験もあり家事は一通りこなすことができた。妻と２人暮らしの時も家事は分担していた。

最高の時間

　夜泣きに悩まされた時期もあった。ただ井上さんが出社をしないため夜２人で眠れなくても朝早く起きる必要がなかったのはとても助かったそう。その余裕が子どもにも伝わったのか、徐々に寝つきはよくなり妻のメンタルも安定した。日中、妻に１人の時間を提供するため、井上さんは子どもを連れだし数時間、近所で行ったり来たりをすることもあった。

　「何が一番大変だったかな」と井上さんは育休が終わった今、１年間を振り返る。何もわからず大の大人が２人で右往左往した。当たり前が当たり前でないこと、さまざまな物事が誰かの献身に支えられていること、そして改めて母親への感謝などたくさんの気づきや発見があった。「（育児を）最初はちょっと甘くみていた」と反省しつつ「次の子が生まれたとしても１人で育児をすることは考えられない」とし、「最高の１年だった」と充実した表情を浮かべる。

　育休明けで働く現在は、決まった時間で行動できることに喜びを感じているそう。朝家を出てから帰るまで「こんなに赤ちゃんの泣き声を聞かないのは新鮮」と笑う。

　なお、育休期間中の収入について国から育児休業給付金が支給される（休業開始時賃金の67％）。相模原商工会議所の規定では給料はない。この点について井上さんは「日本が少子化であることを考えれば、国は早く子どもを産んでもらった方が良いと思うが、育休で収入減が見込まれる状況では、収入が少ない若い世代が育休をとって生活していくのはとても難しいのでは」と意見を述べた。これから取得を考えている男性に対しては「私は良かったと思っている。検討できる余地があるならぜひ考えてみてもらいたい」と呼びかけた。

推進すべき

　今回の取得について同会議所は「中小企業においても男性の育児休業取得は、多様な人材活用という観点から推進すべきものです。一方で、さまざまな課題もあるので、当所としても今後、中小企業の現場の声をいただきながら、行政と連携し事例・助成策の発信、また、さらなる支援措置の拡充についても、国県市などに働きかけていきたいと思っております」とコメントを出した。