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さがみはら緑区 社会

公開日:2025.07.17

戦地への思い、作品で表現
PHAP(パレスチナのハートアートプロジェクト)代表 上條陽子さん

  • 制作中の作品『魔の山』の前で話す上條さん。「相模原には市立美術館がないのが残念ですね。アートは子どもを笑顔にする力、平和や命の大切さを訴える力もあるんです」

 戦禍を憂い、一刻も早い終戦を願いながら『魔の山』を制作する、現代美術家の上條陽子さん(88・南区在住)。パレスチナ支援の画家と呼ばれる彼女の思いとは―。

 上條さんは1937年横浜生まれ。41歳で発表した作品『玄黄』で女性初の安井賞を受賞。50歳で大病を患い2度の開頭手術を経験。生死をさまよった先に見たのは「生命」への思いだった。

屋根のない刑務所

 上條さんが「屋根のない刑務所」とも称されるパレスチナ自治区・ガザを初めて訪れたのは99年。知人に誘われ、現地で開かれたグループ展へ参加したのがきっかけだった。高い壁に囲まれた地で多くの人が過酷な生活を強いられる姿に衝撃を受け、帰国後、仲間とPHAP(パレスチナのハート アートプロジェクト)を立ち上げた。以降、20年以上にわたり、絵画指導などの支援活動を続けている。

 2019年にはガザの画家3人の来日を実現、巡回展も成功させた。その後、21年に予定していた訪問がコロナ禍で延期に。コロナが明けたら現地を訪れるつもりでいたが、23年10月のイスラエル軍による侵攻で、ガザの状況は激変。戦況は悪化の一途を辿り、訪問できる見通しがつかない。今年1月に停戦合意が報じられたが、以降もイスラエル軍によるガザへの激しい攻撃は続き、ガザ地区の死者は5万7000人を超えている。「私ももう年だからこの先行けるかどうか」。苦悶の表情を見せる。

 戦乱の中、SNSなどで現地の画家たちと連絡を取り合い、日本でガザの子どもや画家たちの作品展を開く度に、現地の「今」を発信し続ける上條さん。今年1月には19年に来日した画家たちから「生活費を工面するために日本にある作品を売りたい」と相談があり、PHAPで要望をかなえた。上條さんは「戦争は犯罪」と語気を荒げ、「お互い仲良く、前よりいい方向に進んでほしい」と力を込めた。

8歳で空襲を経験

 上條さん自身も8歳の時に、空襲を体験。今もその様子は鮮明に脳裏に焼き付いている。「サイレンが鳴り響いて、B29の焼夷弾が家に4つ落ちた。怖かった」。戦後、自分の中で忘れかけていた記憶。その断片がパレスチナと携わることで再び呼び起こされた。「自分の戦争体験と重なることがある。まさかこんな時代が来るとは」。沈痛な面持ちで語る。

 現在制作中の作品『魔の山』はトーマス・マンの小説から発想を得た。「山には魔物が住んでいる」。キャンバスには実際に現地で出会った子どもたちの顔と黒く渦巻く山。「みんなのことを思いながら、子どもたちが魔物に食い殺されないよう願いを込めています」

戦争のない世界

 「現地の人は『戦争はもうたくさん。子どもが元気に学校へ行き、帰ってきてくれることだけが願い』だと言っています。日本の若い子は『戦争の怖さ』を知らない。それが怖い。戦争をゲームのように思っていないか。若い子たちはどう考えているのか。もっと世の中に関心を持って自分なりに『戦争のない世界』を考えてほしい」と切実な思いを訴えた。

(7月14日起稿)

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