全国でも少ない仏画師で、今月鎌倉芸術館で仏画展を開催する 寺田 しのぶさん 城南在住 56歳
己と戦い筆に祈り込める
○…お香の立ち込める作業部屋は、寺社を思わせる。仏画師という仕事は、アーティストではなく職人の領域。信仰にも似た篤い敬意と、伝統を受け継ぐ誇り、周囲への感謝と平和への祈り。様々な想いを胸に、まるで命を削るかのように筆を走らせる様を、自身で「修行」に例えつつ、「楽しくてしょうがない」と屈託なく笑う。
○…辻堂でスポーツ用品店を営む両親の傍ら、ペンと紙さえあればいくらでも時を過ごせた。一方で、ソフトテニスを指導する父の影響で握ったラケットとは長く青春を共にし、就職後、実業団チームのメンバーとして全国大会にも出場した。転機は2001年、友人の誘いで行ったカルチャーセンターで仏画講座を見付けたこと。書道家の父の影響で身近だった墨と筆や、短大で学んだ油絵を活かせるかも、と軽い気持ちで始め、気付けば会社を辞め、絵一筋に生きるまでに。「繰り返しの毎日にふと立ち止まった時、将来何をして生きていきたいかと考え、手に取ったのは筆でした」とほほ笑む。
○…仏画は、技法、描き方などの形式に従うことが鉄則。自身は平安密教絵画を主とするため、一門口伝やそれすら絶えて久しい技術も多く、1000年以上遡った調査が必要な依頼もあり、一作に1年、3年を費やすことはざら。「仏様のお姿を描く時は、拝む方の思いに耐えられる強さと、思いを受け止める優しさも必要。日々修行」とその難しさを語る。
○…没頭しすぎて体調を崩し、夫にSOSを発信したことも少なくない。エネルギー補給は愛猫との触れ合い、国宝館などへの訪問だ。一本立ちし初の仏画個展。「仏画には銘や作家名はつけません。私の作品というより、仏画そのものを広く知ってほしいですね」
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