絶品卸金を出品
店の強みを生かした商品開発に取り組もうという「一店逸品運動」に参加する商売人が集まり、その年のグランプリを決める「全国逸品セレクション」。その第6回大会が11月2日、東京都中央区で開催され、ノンフード部門に初出品した御刃物処桝屋(明石町)の「手打目立銅卸金(てうちめたてどうおろしがね)」が堂々のグランプリに輝いた。全国の精鋭が集まる大会での快挙の裏には、亡き夫・高橋經祺(つねき)さんと妻である奈緒子さん(41)の間で結ばれた”約束”があった。
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全国各地で選ばれた7団体13作品が名を連ねた同大会。桝屋は市内外41店舗が参加する「平塚逸品研究会」の代表として、ノンフード部門に出品した。
グランプリを受賞した卸金は、職人が手打ちで製造。目立てしている刃一つひとつが包丁と同じ切れ味を持ち、大根をすりおろすとふわふわした淡雪のような食味になるのが特徴だ。
江戸時代後期に創業した同店は、5代目刃付師の經祺さんが経営していた市内唯一の刃物専門店。經祺さんは「逸品研究会」や地元商店会「大門会」にも積極的に関わり、地域でも顔が広い存在だった。「会議や飲み会にもたくさん連れて行ってくれて、色々な人を紹介してもらいました。ツネちゃんは中でも逸品研究会に一番熱心だった」と奈緒子さんは振り返る。
大柄な体だった經祺さんに変化が現れたのは数年前のこと。左右の尻の大きさが違うことを奈緒子さんが発見し、「脂肪肉腫」と診断された。「闘病中もお店や逸品のことが気になっていたようで。すぐに復帰しようねと2人で話していました」と目に涙を浮かべながらポツリとつぶやく。
時間が経つにつれて腫瘍は經祺さんの体を蝕み、肺などに転移。2015年6月に41歳の若さで息を引き取った。「ツネちゃんと最期の別れの時に約束したんです。私が絶対に、店や家族、娘を守るからねって」
夫が闘病中に閉めていた店舗は、奈緒子さん1人で切り盛りすることに。店内には今も、經祺さんが見立てた刃物やナイフ、鍬など約300点の商品が所狭しと並ぶ。「包丁などは実際に握ってもらい、手にしっくりくるものを選んでほしい」と奈緒子さん。生前に經祺さんが大切にした「対面販売」もしっかりと継承している。
夫のいた逸品研究会には2年前に入会した。經祺さんに教わった商品メモを頼りに刃物と向き合い、自分の店ならではの魅力は何かと問い続ける日々だ。グランプリを獲得した卸金も「刃の向きが微妙に異なるなど細部にこだわった商品なのに、存在が知られていない。職人技のすごさを伝えたかった」と出品のきっかけを明かす。
「今回のグランプリ受賞はとてもうれしい。ツネちゃんにも報告ができてよかった」と奈緒子さん。次の目標は「参道として栄えた大門通り(明石町)に活気を戻すこと」。夫の遺志を実現するため、女店主は店を守り続けるつもりだ。
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