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小田原・箱根・湯河原・真鶴 人物風土記

公開日:2022.10.15

新著を執筆し、個展を開催する箱根寄木細工伝統工芸士
本間 昇さん
箱根町在住 91歳

九十翁「離」を目指す

 ○…箱根寄木細工一筋75年。10月19日から小田原市内で開催される個展には、伝統と新しい感性が生み出した力作が約80点並ぶ。新著『守破離する九十翁 本間昇』には、伝統技術を忠実に身に付ける「守」、他流派を学び心技を発展させる「破」、新しいものを生み出し確立させる「離」を体現する、寄木人生がつづられている。

 ○…6人兄弟の長男で、16歳で父親と同じ寄木職人の道に入った。父親の指導は厳しく、失敗すると「全部燃やせと言われ、情けなくて泣きながら火にくべたこともあった」という。「職人として飯を食うにはよほどの努力が必要」。苦労しただけに、息子には勧めなかったが、「自発的に継ぐって言ってくれた」。40代の2人の弟子も「一人前になってきている」と目を細める。

 ○…人生を変えた作品、江戸時代の「観音開扉寄木洋風厨子」に出会ったのは、熟練に差し掛かる50歳を過ぎた頃。乱寄木が施され、内部は漆塗りで蓮の蒔絵が描かれていた。「なんて美しいんだろう」と魅せられ、妻と2人で3年がかりで複製した。この経験から、さまざまな古美術作品からヒントを得て作風に取り入れるように。着物模様をモチーフにした乱寄木古代裂など、新たな意匠に挑戦。84歳で日本伝統工芸展で新人賞、86歳で最高賞の東京都知事賞に輝いた。

 ○…90歳を超えても、休みなく工房で寄木に打ち込む。加えて英会話を学び、パソコンを使って著書を手掛けるパワフルな姿に、周囲からは「モンスターと言われる」と笑う。「腕を信じて、元気なうちはさらに『離』を目指したい。それが、寄木細工の継承につながっていく」。穏やかな表情は、出会った人への感謝と、寄木細工への愛情に満ちあふれている。

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