秦野 文化
公開日:2023.03.24
郷土の歌人
前田夕暮に迫る
自然主義の代表歌人として「夕暮・牧水時代」と称される一時代を文学史上に残し、三木露風や萩原朔太郎らに活躍の場を与えた秦野出身の歌人・前田夕暮(まえだゆうぐれ)。2023年7月で生誕140周年となる。秦野を愛し、ふるさとの風景を多く詠った前田夕暮について、長年にわたり研究している鶴見大学名誉教授で現代歌人協会会員の山田吉郎さん(秦野市在住)に話を聞いた。
-夕暮作品の魅力はどういったところにあるとお考えですか。
まず、非常にみずみずしくフレッシュな感覚を持っているところです。概念などよりは、味覚や視覚、聴覚などの身体感覚に直接訴えかけてくるような特色があります。
二つ目は文学界の時代の流れに非常に敏感で、新しいものを先取りする鋭いアンテナをもっていた点だと思います。例えば、日本近代短歌の歴史の中で自由律短歌と呼ばれる、五・七・五・七・七の定型にとらわれずに詠もうという雰囲気が広まった時代がありました。その時に「自然がずんずん体のなかを通過する―山、山、山」という、飛行機に乗った際に郷里丹沢山塊を飛び越えた感動を大胆な口語自由律の歌で詠い大きな反響を呼びました。
-夕暮作品に秦野が与えた影響は大きいのでしょうか。
かなり大きいと思います。夕暮は21歳で東京に居を移していますが、生涯にわたり丹沢山麓の歌を詠んでいます。「大竹藪つきぬけ行けば阿夫利(あふり)嶺(ね)は山崩れ赭(あか)くそぎたちにけり」という関東大震災後に帰省した際に郷里に残る爪跡を歌った作品もあるように、夕暮からは、ふるさとへの強い思いが感じられます。
-山田さんが前田夕暮を研究されたきっかけについて聞かせてください。
元々文学の研究をやりたいと考えていて、誰の研究をするか調べたときに文学的に大きな存在であることや、自分と同じ秦野市出身ということを知り興味を持ちました。地元の人なので近しい人を繰り返し訪ねることもできて、研究好きな自分にあっていましたし、知れば知るほど夕暮の魅力に気づきました。
-秦野市内に住む人でも夕暮作品を知らない方もいると思います。おすすめの本はありますか。
分かりやすいものは『前田夕暮百首』(村岡嘉子・山田吉郎編、秦野市立図書館、2005年)ですね。これは夕暮が生涯で詠んだ歌から代表作100首を選んだもので、夕暮を初めて知るのに良いと思います。実は夕暮は小説などの散文にも優れていて、『緑草心理』という散文集の自然描写を川端康成がほめているんですね。そういったものを手軽に読む機会があればいいのですが、なかなか入手が難しかったり、コンパクトなサイズのものがないところが課題かもしれないですね。
-ありがとうございました。
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