鍛冶ケ谷の郷土芸能「ねんねこ踊り」三代目継承者 郷 房江さん 鍛冶ケ谷在住 68歳
父を偲び舞い踊る
◯…明治時代から鍛冶ケ谷に伝わる郷土芸能「ねんねんこ踊り」の三代目継承者を務め、秋の八幡神社の禮大祭でも舞を奉納している。元々は同地区にある「やまゆり保育園」の現園長の曽祖父に当たる人が浅草で踊りを習い、鍛冶ケ谷で踊り始め父親が継いだ。地域のお正月には欠かせないものだったという。
○…「父親が亡くなり誰も継ぐ人間がいなかったので、寂しさと後世に残しておかなければ」との思いから約15年前に覚えていた父親の踊りを自分でさらい、父親に教えを請い学んだという。しかし父親は「ねんねこは、男性が女性の格好をして踊ることにこそ醍醐味がある」と余り気のりはしていなかったとのこと。なかなか披露する機会もなく、人前で踊り始めたのは4年前の東日本大震災後から。「ねんねこは、無病息災、子孫繁栄の利益のある縁起の良い踊りなので辛く悲しいニュースばかり流れる中で地域の皆さんを励まし、元気を出してもらえればとの思いですね」と話す。
○…同居する仲良しの93歳の義母は初代の踊りを知る今や数少ない人間、時には自らの踊りをチェックしてもらう。「私が子供時分のお正月は、ねんねこが家々を巡ってね。ふめんの良いお家でしか全部は踊ってもらえなかったの。笛の音でその違いは分かるのよねぇ」と義母が話せば「ふめんっていったって分かんないわよ、お母さん。踊っていたのは初代のきーちゃん?」とあれこれ昔話が弾む。
○…生まれも育ちも鍛冶ケ谷で嫁入り先も鍛冶ケ谷。夫、長男、長女の4人家族で孫も4人いる。6人兄弟の長女で自分以外の兄弟は誰も興味を持たなかったが、小さな頃から踊ることが大好きで新舞踊の師範の資格も有する。「踊る前には父の顔を思い浮かべて、今から踊りますから見ていて下さいねって心でつぶやくの」。おっちょこちょいで陽気な性分だった父親に似ているのかもしれないわと笑みを浮かべた。