1月19日に行われた第7回木山捷平文学選奨(主催・岡山県笠岡市ほか)の最終選考で、吉野光久さん(70)=釜利谷西=の「異土(いど)」が短編小説賞に選ばれた。吉野さんは過去2回最終選考に残っており、3度目にして栄誉を手にした。
この文学選奨は、岡山県笠岡市出身の作家・木山捷平(1904〜68)を顕彰し、年1回開催されている。このうち短編小説賞は、新人の未発表作が対象。今回は288の応募があった。
吉野さんの受賞作「異土」は、海外に夢を託してカナダに渡った移民を描いたもの。執筆のきっかけは、八ヶ岳の麓で珍しい蝶を見かけたことだった。この蝶「アサギマダラ」は、日本で唯一確認されている渡り蝶。南方で生まれ日本の山や高原に飛んできて、秋になると紀伊半島から再び故郷に戻る。同じように紀州から海を渡り、カナダに移民した妻の父母らの姿をアサギマダラに重ねた。
「明治維新以降の百年、日本人が激動の時代をどう生きたか。身近な人を通じてそれを描き、次代に伝えたかった」と吉野さん。今回の受賞については、「ほっとしました。60代のうちになんとか形になればと思っていたから、それはクリアできた」と喜んだ。同選奨では過去2回最終選考に残るも涙をのんだだけに、今回の受賞はまさに「3度目の正直」となった。
今後は長編も
金沢区には1979年に移り住んで以来30年以上暮している。「神戸生まれだから、(同じように)山と海がある場所じゃないと。だだっ広い平野には住みたくなかった」と微笑む。
吉野さんは元新聞記者で、84年にはドキュメンタリーの連載記事で菊池寛賞を受賞した。「記者だからノンフィクションが専門。でも、事実をいくら重ねても、真実はわからないこともある」。そんな思いから、現役を退いてからはフィクションを書こうと決め、65歳で文筆活動を始めた。
この5年間は短編小説を中心に執筆。初期の作品は、どうしてもドキュメンタリーのようになってしまったという。「書き手の主観や感情をさらけ出すことを、だんだん理解できるようになってきました」と自らの”成長”を話す吉野さん。「今回の受賞でそれなりの評価を受けたので、これでまた書き始められるという思い。長編にも挑戦したい」と、これからの執筆にも意欲を見せた。
吉野さんの受賞作が収載されている作品集は、3月に完成予定。一般にも有料で配布される。問い合わせは笠岡市役所生涯学習課【電話】0865・69・2155まで。
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