生麦事件参考館で事件の歴史を語り継ぐ 淺海(あさうみ)武夫さん 生麦在住 82歳
噺家のごとき語り部
○…「生意気だけど、今私は時の人かもしれないね」。1862年8月21日、薩摩藩士が英国人を殺傷した生麦事件から今年で150年。館長を勤める生麦事件参考館には国内外のメディアが取材に訪れ、スケジュールはびっしり。周囲からは「先生」と呼ばれ尊敬を集める。
○…生麦の酒屋の家庭に生まれ家業を継いだ。「本当は絵描きになりたかったんだけれど。父が倒れてしまって。仕方なくだった」。当初は気の進まなかった家業だが、やがて酒の道具を集めた資料館を作ろうと思いつき、1994年に実現。同時に生麦事件参考館も設立させた。きっかけは鹿児島から事件の碑を見に来た男性との出会い。生麦事件は近代国家成立の発端なのに資料を見せる場がないのかという手紙をもらった。「その言葉にうたれまして。地元で長くごはんを食べさせてもらっているし、自分にできることをして恩返ししたいとも思った」
○…1976年から生麦事件に関する資料や文献を国内外から収集。当初は事件の資料はほとんど残っていないため集めるのは無理だと言われていた。「凝り性なんです。やりだしたらとことんやらないと気がすまない」。没頭する姿を支えてきたのは妻。参考館に不在の時は妻が見学者の対応をしていた。「きっちり対応してくれるから私がいなくてもよかったなんて言われたこともあった。ここまでできたのはカミさんのおかげだと思う」。妻は昨年8月に亡くなり、就寝前仏壇に話しかけるのが日課になっている。
○…参考館の見学者には自らガイドをする。噺家のようにテンポのいいしゃべり口に惹きつけられる。地元の人向けには地元らしいエピソードを織り交ぜるなど、聞き手に合わせ内容も変える。取材中も手元にあるペンを噺家の扇子のようにペチンと叩く音が軽快に響く。「地元のためにも私が死んだ後もこの参考館を残していきたい」
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