鶴見区 教育
公開日:2023.04.06
ヤングケアラーはあなたの身近に
「父さん、中学でも頑張るよ」
余命わずかの父に届けた卒業証書
この春、鶴見区内に暮らすある少年が小学校を卒業した。一見どこにでもいる普通の12歳だが、彼の父親の余命はあとわずか。自宅で療養する父と同部屋で寝食を共にし、身体の弱い母の家事や父の介護も手伝ってきた。世間から見えづらい「ヤングケアラー」の存在。そして、彼が卒業を機に語った父親への思いとは--。
タケル君(仮名)は父(42)と母(41)の3人暮らし。2年前に父親が白血病を患い、昨年にはガンが見つかり、ステージ4と診断された。医師からは年を越せないだろうと余命宣告されたが、息子の小学校卒業を見たいと頑張ってきた。
家族は「3人の時間を大切にしたい」と自宅での療養を選択。元気なころは生活態度などにも厳しい父だったが、「明るい性格で、僕たちを沢山笑わせてくれた。怒られることも多かったけれど、そんな所が好き」とタケル君。
部屋数の限られたアパートで寝室は一部屋。日に何度も介護士が入る部屋でタケル君も寝起きし、遊ぶのもこの部屋だった。「だって、別の部屋だと寂しいし」。さも当然と明るく話す表情に救われる思いがするとともに、家族の絆と幸せの形が見て取れた。
そして迎えた3月。事前に学校と相談しながら、当初は車いすでの参加を検討していたが、病状が悪化して困難に。改めて学校に相談したところ、学校長や担任が自宅を訪れ、父のベッドの前で卒業証書を手渡してくれることになった。「まさかこんなことまで学校がしてくれるなんて」と母。息子が中学の制服を着て、小学校の卒業証書を受け取る姿を見た父は「本当に心の優しい子に育ってくれた」と、ずっと涙を流していたという。
忘れられない父の言葉
タケル君が卒業文集に書いた作文は「自分への投資」。これは父が以前に話してくれた「勉強は自分への投資だよ」という言葉。当時は面倒だった勉強に、この言葉で前向きになれたと話し、「これからも、お父さんに言われた言葉を忘れずに、未来の自分への投資を頑張って続けていきたい」と綴っている。
この親子を3年以上、伴走型で支えてきた(一社)Omoshiroの勝呂ちひろさんは「小さい頃は気持ちをうまく伝えられなかったり、コロナ禍は親にうつすことを心配して学校行事を休んだり、自然と我慢してしまう子だった。今回自分の気持ちを彼自身が大事に表現できた。親御さんにとってそれが一番嬉しかったのでは」と話す。
タケル君の今の目標はお小遣いを貯めて、好きな新幹線に乗って新潟へ旅行すること。将来は車両整備の仕事に就くのが夢だとか。「お父さんありがとう。中学生になっても頑張るよ」。詰襟の制服を着たその表情はとても誇らしげだった。
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