松阪牛や米沢牛など、全国に名をはせる銘柄がしのぎを削る肉用牛の世界。横浜の地でも、生産農家が厳格な条件の下で飼育する黒毛和牛「横濱ビーフ」が市場に流通している。区内唯一の生産者・平本畜産=羽沢町=を訪ねた。
平本畜産の牛舎は、広大な農地が広がる菅田・羽沢農業専用地域周辺の丘陵地にある。生産者の平本政和さん(67)によると、飼育数は常時100頭前後。安定供給に向け、毎月のように子牛の買い付けを行っているという。
横濱ビーフは、横浜を中心とした10軒ほどの農家有志でつくる「横濱ビーフ推進協議会」が定める統一の配合飼料を与え、霜降りの度合いや肉の色味、きめなどの格付け基準で最上級となる5等級と4等級を得た牛のみに与えられるブランドだ。息子の洋右さん(43)は「うちで飼っている牛は確実に横濱ビーフを名乗れる肉質」と胸を張る。
平本畜産では生後3〜4カ月の子牛を仕入れ、配合飼料に県内のビール工場で排出されるビールかすやおからなどのエコフィードを混ぜ合わせた餌を与えている。稲わらは県内一の米どころとして知られる平塚市、伊勢原市から取り寄せるなど、「地産地消の飼育」がこだわりだ。
飼育期間は他の生産者と比べると短く、生後26〜27カ月で厚木市の食肉センターや東京食肉市場に出荷。県内の食品スーパーに並ぶほか、箱根町の旅館などでも使用されている。
牛舎では、体の引き締まった牛の群れが餌を食べたり寝そべったり。ストレスを与えずのびのびと育てることで、程よい脂の乗った良質な肉質に仕上がるという。「それでも牛には性格があるので、集団の中で力関係が生まれる。強い牛は大きく育つが、弱い牛は餌を食べず小さいまま」(洋右さん)と、1頭1頭の成育を見守るために連日牛舎に通い詰める。
「松坂牛にも負けない肉を」
政和さんの父が養豚業としてスタートした平本畜産は、父の代で肉用牛に転業。政和さんが継いでからは、東京食肉市場の品評会で最優秀賞を受賞するなど、高い飼育管理技術で横濱ビーフの名前に恥じない良質な牛肉の生産を続けている。
病気にかからないかと気をもむことも多いが、「1年を通して8割の牛がA5(等級)を達成できたときはうれしい」と政和さん。「愛情を込めて育てれば、牛も応えてくれるんです」と目を細める。
旨味のある柔らかな肉質と、口の中でとろけるような脂身のバランスが横濱ビーフの醍醐味だ。政和さんと洋右さんは「どの農家も自分の牛が一番という誇りを持って育てている。うちだって、おいしさでは松坂牛にも負けません」と口を揃える。
幸い、コロナ禍の影響は軽微で済んだという。外食控えで家庭での食事が増える中、「おいしいお肉を食べて元気になってもらわないと」。横浜育ちのご当地牛で、食卓に笑顔を届けたいと願っている。
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