町田版 掲載号:2017年7月27日号
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町田万葉散歩① 「薬師池公園」 沢野ひとし

 町田市郊外に移り住んで四十年ほどたつ。家の近くの薬師池公園に四季折々妻と散歩に行く。ささいなことでいつも喧嘩をしている夫婦なので、歩いているときも無言の行進が続く。

 薬師池公園は緑が多く草花が訪れる人の、気持ちをなぐさめてくれる。水の近くに行くと体も浄化されるのか清々しい。



 娘や息子がまだ小学生だった頃は子分のようにしたがえ、しぶる二人に茶屋であんみつや串ダンゴをふるまっていた。人は甘いものを口に入れていると幸せそうな笑顔が浮かぶ。茶屋のベンチに腰を下ろし、原稿が煮詰まった親は放心したようにまた水面を見つめる。



 池の水を自分の心の中にある、プールのように広がった水とかさねる時がある。ふと水が少ないなと思う時は、たいがいは仕事の不満や満たされない日々に苛立った時だ。逆に穏やかな時は池の水面と同じように自分の心も波を立てることもなく静かである。



 やがて娘や息子が結婚し孫が生まれてからは家で孫たちを預かるせいか、公園に来る回数が断然多くなってきた。そんな時の妻の表情は青空のように明るい。

 園内の「萬葉草花苑」も楽しみの一つ。春から夏にかけて万葉集に歌われた植物が咲いている。ある朝に行ってみると、万葉の時代に忘れな草と呼ばれていたカンゾウが咲いていた。

 大伴旅人はその可憐な花を詠む。



 わすれ草 わが紐に付く 香具山の 古りにし里を 忘れむがため



 古の中国の伝えにカンゾウの花を身につけると、悲しいことを忘れさせてくれるという伝えがあった。それからカンゾウ類は忘れな草と呼ばれた。



 人は歳を取るにしたがい辛いことも、忘れたいこともいつの間にか増えてくる。
 

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