宮司の徒然 其の87町田天満宮 宮司 池田泉
真似事
幼い頃から父親が海や川へ釣りに、山へ山菜採りに連れて行ってくれたことが、私を虫好きや草木好きにさせた原点だろう。釣りは相模川や中津川、鶴川辺りの鶴見川から始まり、小学校の頃には自分だけで自転車や電車で行くこともあった。エサ釣りからやがて毛針釣りに出会い、はじめは相模川などでヤマベ(オイカワ)やハヤ(ウグイ)を流し毛針という方法で釣っていたが、釣り雑誌で職漁師を知り、渓流のヤマメやイワナを自作の毛針で釣りたいと思うようになった。しかし、渓流は町田からは遠い。一番近いところといえば中津川水系の早戸川(宮ケ瀬付近)だから、やはり車がないと行けない。かくして渓流釣りに行けたのは二十歳の頃からだった。
数年前、春の小山田の里山にゼンマイ目当てで出かけた。ゼンマイは山菜としてメジャーだが、採って食べるとなると非常に手間がかかる。ある程度の量を収穫して灰を入れてゆでてアクを抜き、濃いめの塩で保存食にする。食べるときには塩抜きをしてから調理する。昔やってみたが失敗して諦めた。その日の目的はゼンマイの綿毛。成長すると茶色くなって落ちてしまうので、たくさん付いている若いうちに綿毛だけを集めていく。本体には影響なし。裸にしてごめんなさい。集めた綿毛の不純物をピンセットなどで丁寧に取り除き、乾燥させると褐色になる。かなり集めたつもりだったが、ピンポン玉一個分程度だった=写真左中。それでもたくさん巻ける。そう、これは毛針の胴の部分に絹糸で巻き付ける材料だ。私の毛針釣りは「てんから」と呼ばれる和式。竿の先端に専用の釣り糸を付け、その先端に毛針を付けてムチのように振ってポイントにふわりと落とす。それこそ職漁師がいた頃の糸は馬の尻尾の毛をより合わせて作る馬素(ばす)だが、今は手に入らないし、格段に強度のあるテーパーラインが売っている。海外から入ってきたフライフィッシングは、竿を振りながら遠心力と慣性を利用してリールから糸を出していく方法だから、和式毛針釣りとは違い広くて大きな川には有利だ。だが日本の沢は狭い。テンカラは時に竿先に50センチくらいの糸を付けて、木が被っている流れに毛針を落とすこともある。
さて、ゼンマイ胴の毛はキジの羽根だ。剣羽根と呼ばれる羽根は一羽の雄のキジから2枚しか取れない貴重な羽根で、去年亡くなってしまった神社の役員さんが狩猟をする方だったので、買うと高価な剣羽根をたくさんいただくことができた。しかし、様々な鳥の羽根や化繊を使う洋式毛針=同左下=に対して、和式の毛針は地味だ=同左上。竿先で操作して虫らしく見せて魚をだます。職漁師は自然とうまく付き合いながら山川を守り、沢ごとの魚数も調整しながら頼まれた数だけ魚を釣って生業(なりわい)としていた。自作の竿、自作の毛針で深い山河を庭にしていた。とても真似できるものではないが、かろうじて毛針だけ真似させてもらうのが限界。自然のものを利用して魚を得るとはいうものの、現地までの交通手段、化繊だらけの服をまとい、購入したカーボンの竿とナイロンの糸では、環境にやさしいなんて言えたものではない。昭和の中期には途絶えた職漁師に敬意を表し、恥ずかしながら真似事をさせてもらっている。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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