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掲載号:2022年1月13日号

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本能の記憶

 暖かい秋とはいえ、いよいよ大陸からの寒波も被ってくれば、虫の声はいつの間にか聴こえなくなり、夏から秋に蝶を誘っていた草たちも褐色に変わり、春に向けて種をこぼしたり、力を蓄えて根だけで越冬する草。写真はカモメヅル、ヒヨドリバナ。

 カモメヅルの葉を食べて成虫となったアサギマダラは渡り蝶として有名。フジバカマやヒヨドリバナ、ノアザミなどを好んで吸蜜しながら、個体によっては日本から2500キロ離れた香港でも確認されている。その確認方法はというと、捕まえて羽根にマジックで場所と年月日を記入して逃がし、それを愛好家がどこかで捕まえれば、飛んだ距離と日数が解るというやり方。アサギマダラは庭や出先でまれに出会うことがあるが、残念ながら、私はまだ羽根に文字でマーキングされたアサギマダラには出会えていない。写真撮影地は箱根の観光地「関所跡」。釣りに行った渓流沿いの林内でも数羽に出会ったことがあるが数羽というのはアサギマダラとしては多い方ではないだろうか。大抵1羽か2羽の場合が多い。アサギマダラは群れないのか、繁殖地がないのか、どこかで合流して旅立つのか、謎の多い蝶だ。さらに浅葱(あさぎ)色、つまり水色の部分が美しく、愛好家が探求しているのも頷ける。私的には神職の水色の袴も浅葱色なので、なんとなく親近感を抱いていることもある。

 旅をするマダラチョウとしてはアメリカのオオカバマダラが有名で、何世代もかけて数万羽の群れで数千キロもの旅をする。そして同じ森へ戻って来るというから驚きだ。しかもアメリカのカリフォルニア州などでは、数年かかって戻って来る蝶のために、その森を立入禁止にして保護しているという。自然を守ることは人間を遮断する事、それが一番の得策。見習うべきだが、狭い日本ではなかなか難しい。

 マダラチョウの仲間は遠距離移動することから、あまり羽ばたかずに風に乗って飛ぶ特技を持っている。アサギマダラは1日に200キロも移動することができるらしい。見つけたら白いタオルなどをぐるぐる回すと近くに寄って来るという無警戒なところもあるから、今度出会ったら絶対にやってみたい。その前に庭にフジバカマかヒヨドリバナを増やしておかなくては。誘っておいて何もないのでは失礼だから。

 蝶や蛾の多くは幼虫が好む草や木に卵を産み付ける。ナミアゲハは柑橘系、キアゲハやカラスアゲハは山椒、アオスジアゲハは楠、ツマグロヒョウモンはスミレなど。アサギマダラはカモメヅルやイケマに産卵し、幼虫は葉を食べて成長と共に体内に毒を貯める。それは鳥に食べられても吐き出すほどの毒だ。その草の種類を見分ける能力もすごいと思うし、2千キロも旅をしてきて、自分が好む花と幼虫の食草が異国にあることを知っている上に、見つけ出すことにも驚きだ。まさに親から受け継いだ本能と記憶の遺伝子なのだろう。

 近年、母親が乳幼児の命を奪ってしまう事件が増えた。新型コロナウイルスが変異を繰り返すように、人間の遺伝子も変異しているのだろうか。自分を犠牲にしても我が子を守ろうとする本能の遺伝子が、自分本位な遺伝子に変異しているなんて想像したくもないが、歩みを止めないIT化、飛び交う電波、汚れていく大気。様々な要因が我々に負の刺激を及ぼしているのかもしれない。未来と共に営みの原点を見つめ直すことも忘れてはならない。絶妙なバランスを取りながら真っ直ぐに生きている草木や虫に教えられることは多い。

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