町田 コラム
公開日:2022.05.12
町田天満宮 宮司 池田泉
宮司の徒然 其の104
祈り
人々の祈りがコロナ終息に集中して2年余りにもなる。思いおこせば令和2年の節分祭当日。「なんだか中国で何とかっていうウイルスが広がってるらしいぞ。そんなもん、鬼は外で追い払っちゃえー!」。そんなノリで危機感なく恒例の節分行事が賑やかに行われたことを想い出す。まさかこんなことになるとは。
私は職業柄持っていないが、祈りの道具として誰もが知っているのは数珠(じゅず)。木や石のものができる以前は、実際に植物の数珠玉(じゅずだま)の実を繋げて使用していた。本来は仏教でいう煩悩の数108個であり、念仏を唱えた数を数えるための道具だった。また仏陀の教えの解釈によって様々な宗派に分かれ、それぞれに祈り方や数珠の扱いにも違いが生まれた。基本は108個で、簡素化されても108の約数で作られたが、いつしか男女の数の違いや、大きさや材質も変わり、果てはパワーストーンで作ってスピリチュアルな御守り、あげく単なるファッションアイテムにもなっている。キリスト教でもロザリオという十字架を首に掛けるためのものは古来数珠玉で作られ、これも同様に教典を唱える段取りを数えるための道具であった。いずれにしても、ファッションでも良いけれど、せめて本来の意味は知っておくべきだと思う。
数珠玉はイネ科の一年草で、別名は誰もが知るハトムギ。硬い果実に見える部分は実は果実ではなく苞葉鞘(ほうようしょう)という鞘(さや)で、それが硬くなって本当の果実を鳥などから守っている。古代から穀物として食用とされてきて、今でも東南アジアなどでは米の休耕田で作られているが、日本ではハトムギ茶の目的で栽培している。体を冷やす作用があるとされ、夏バテには良いらしい。
生薬として様々な効能がある数珠玉だが、私にとっては幼い頃の苦い思い出が甦る。銀玉鉄砲というプラスチック製のピストルで、専用の銀色の玉を入れて飛ばす。今のBB弾ほどの威力はなかった。この銀玉は小さな紙製の箱で別売されていた。私が小学校低学年当時、5円か10円くらいだったと思うが、銀玉は打って堅いところに当たると割れてしまうため、銀玉だけ買い足さなければならない。しかしお小遣いはそんなにない。そこで銀玉にサイズが近い数珠玉を野原に採りに行く。硬い実をたくさん集めてよく乾燥させ、尖った部分をコンクリにこすりつけて削り、それを銀玉の代用にした。ただし、まん丸ではないし、大きさも微妙にまちまちだから、何回か打つと中でひっかかったりつぶれたりして、それを掻き出すのに苦労したあげくピストルが壊れたり。買えないから自然のものを利用する。まさにSDGs。その頃の自分には環境意識があるはずもなく、ただ遊びたかっただけ。それでも、そんな工夫をした経験は、何かの役に立っているかもしれない。その時の祈りが、「数珠玉、うまく飛んでくれー」だけだったとしても。
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