来年、高尾山に奉納予定の「平成最後の下原刀(したはらとう)」を手掛ける 佐藤 利美さん 中野山王在住 74歳
30年 情熱の集大成
○…製作中のカミソリを取り出しながら「ここに指を添えるへこみがあるでしょ。プロはここに指を当てて使う。右利き用だから、こっち側にあるんだよ」と刃物作りのこだわりを語る姿は楽しげだ。骨の髄まで鍛冶職人。その情熱で、室町時代から幕末にかけて恩方や横川、元八王子で作られていた「下原刀」を30年かけて、3年前に復活させた。特徴的な渦巻き状の文様に加え「折れず・曲がらず・良く切れる」というその実用性も再現した。
○…全日本刀匠(とうしょう)会によると、刀匠は全国で約250人。都内でも「数人」という。実用刃物の職人でもあり、大工や料理人が、その切れ味を求めて上恩方町の工房を訪れる。砥いで短くなった場合のことまで考えるなど、使用者の視点に立ったモノづくり。顕微鏡で刃先の組織を確認するなど、科学的な視点も取り入れている。しかし「刃物はデータで良し悪しが分かるが、日本刀は理屈じゃない。材料の玉鋼(たまはがね)は生きている。同じものはない」
○…27歳で教材販売会社を興し、現在も社長業の傍ら土日は工房にこもる。「教材の彫刻刀の良し悪しについて知りたいと思った」ことが鍛冶職人になるきっかけ。新潟の著名な鍛冶の元で学び、39歳で新宿の専門学校に入学し冶金(やきん)を勉強。43歳で刀匠になった。趣味のアユ釣りで日本各地の川に行くが、釣りの最中も山裾に目が行く。刀作りで必要となる粘土が採れるかどうかを考えてしまう。
○…古い時代の名刀も現存するなど、1000年前の刀匠たちがライバルでもある。「今から100年後に『平成の刀はこの程度か』ではなく、『どうやって作ったんだろう』と思われたい」と話す。作刀中の「平成最後の下原刀」は、情熱の集大成になるはずだ。
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