八王子 人物風土記
公開日:2021.03.11
東日本震災を生き延びた豚「有難豚(ありがとん)」を扱うホープフルピッグの代表の
高橋 希望(のぞみ)さん
小比企町在住
常に希望がある
○…10年前のきょう、宮城県にある実家の養豚場にいた約2000頭の豚が津波で流された。数日後、数頭が返ってきた。中には、1カ月以上かけて戻ってきた豚もいた。ただ電気も水道もトラックもない農場で飼育することは難しかった。まわりの人が諦める中、「生きて帰ってきた豚だからこそ、意味のある形で食べる」。その情熱が養豚家としての第一歩だった。
○…既存の大量生産とは異なり1頭1頭を大切に育て、それを「ありがたくいただく」という養豚を確立するには苦難だらけだった。それでも応援する人は必ずいた。2015年から八王子市内の牧場を間借りできることに。生き残った豚の3頭と一緒に移り住んだ。有難豚はすべて、そのときの豚の子孫だ。「八王子もかつて空襲で市街地の8割が焼けた」。現在の姿は被災地復興への希望のように映る。
○…大学卒業後は障害者就労支援の仕事に就いた。その人が活躍できる場所をマッチングし、環境を整えていく。これが今の仕事にもつながっている。最近は行かれずにいるが、趣味はカフェ巡り。「小さい空間の中で雰囲気が作られている。隣の店に行くとまた異なった風景が見られる」。個性の違いを楽しめるという。
○…古来から豚は祝い事の席を飾ってきた。「1頭の豚を中心に、人と人との大切な時間が成立する」。豚のオーナーになってもらい、子豚から実際に食べるまで見守る事業も展開する。コロナ禍を逆手に取り、リモート養豚場をオープンし、オーナーがカメラで農場の様子を見ることもできるようにした。「考え過ぎないように。動物は生きることを迷わない」。自身に言い聞かせるように、力強く話した。
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