―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空 第7回 作者/前野 博
(前回からのつづき)
由江は、二年の間、大野理髪店の手助けに行っていたことになる。その間に、キミの腕は上達し、理容師として十分仕事ができるようになった。
昭和十九年六月、マリアナ沖海戦において、日本海軍は壊滅的敗北を喫し、西太平洋の制空権と制海権は、アメリカ軍の支配するところとなった。アメリカ軍は、八月には、サイパンとテニアンに飛行場を建設し、航空兵力の増強をはかり、日本本土爆撃の攻撃態勢を整えていった。
日本本土空襲の迫る中、政府は、大都市防空の足手まといとなる、老人や子どもを地方へ疎開させる計画を立てた。この八王子市とその周辺の町や村にも、親元を離れた子ども達が続々と到着し、寺や公会堂などの施設に宿泊して疎開生活を開始したのであった。
「今日は、学童疎開の子ども達の散髪だそうよ」
八王子の理容組合から、勤労奉仕に出向くようにとの要請が来て、キミと由江は、市役所前からトラックの荷台に乗せられた。トラックは、市内から離れ、元八王子村の方へ向かった。山の木々が紅く色づき始めていた。キミと由江の他に、三人の女性の理容師が同乗していた。皆、顔なじみだし、年齢も近く、勤労奉仕というと大体一緒に動員されていた。
荷台の真ん中には、麻袋が積まれていた。
「何が入っているのかしら?」
キミが麻袋に手を触れた。
「芋ですよ。子ども達の食事です。ようやく届いたのです。子ども達が腹を空かせて待っています」
荷台の端に座っていた戦闘帽に国民服の男が、顔を上げた。女達は一様に驚いた顔をした。皆、荷台の端に座っているのは、年配の気難しい男だろう位にしか思っていなかった。戦闘帽を深く被り、下を向き、本を読んでいた。大声で話したり、笑い声を上げたりしたら、
「この非常時を、お前らは、何と思っているのだ!」 〈つづく〉
◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。
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