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八王子 コラム

公開日:2025.02.13

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空
第17回 作者/前野 博

 (前回からのつづき)

 「来週、何とか時間を取って、散髪に来るわ」

 突然、由江が声を上げた。

 「キミちゃん大丈夫よね?」

 「えっ!」

 キミは驚いた。由江の有無を言わせぬ表情を見た。

 「大丈夫だと思うわ」

 キミは首を傾げながら答えた。

 「あなた達は?」

 「難しいわ。お店から家の仕事まで、いっぱい溜まっているのよ。休みも欲しいし」

 他の三人は、もう疲れて、早く帰りたい感じであった。

 「由江さんとキミさんが、来週また来てくれるんですか! ありがたい、みんな喜びますよ」

 村上は、子ども達の健康・衛生状態が日々悪くなっていくのが気がかりであった。村の人達も良く協力してくれる。それでも、大勢の子ども達の生活は厳しかった。シラミやノミが、更に子ども達の体力を奪っていた。

 村上が満面に笑みを浮かべて喜んでいた。

 「恵介、由江さんとキミさんが、来週も散髪に来てくれるって。良かったな! おまえは、来週、一番に散髪してもらえばいい」

 村上は、ハリネズミのような恵介の頭を撫でた。

 「もうすぐ八王子行きのバスが来ますよ」

 寮母さんが柱時計を見ていた。今度来るバスが八王子行きの最終バスであった。

 「さあ、みんなで、お姉さん達を見送ろう」

 「行こう! 行こう!」

 村上の呼びかけに応えて、子ども達の間から声が上がった。子ども達の宿泊施設である、隣保館からバスの停留所までの道を、大勢の子ども達がキミ達を囲みながら賑やかに進んで行った。

 ―あれ、由江ちゃんはどこ? 

 キミは、子ども達と一緒に歌を歌って、歩いていた。ふと気づくと、横にいたはずの由江がいなかった。

〈つづく〉

◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。

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