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八王子 コラム

公開日:2025.09.04

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空
第24回〈最終回〉 作者/前野 博

 (前回からのつづき)

 「恵介、行儀良くしているんだぞ」

 「はい!」

 「キミさん、お願いします」

 村上は、運んで来た椅子に恵介を座らせ、言った。

 「はっ、はい!」

 キミは、村上に見つめられて、顔が火照るような感じがした。キミは作業を始めた。村上が、まだキミの方を見ている。何か不審そうな顔だった。

 突然、

 「お姉ちゃん、何も見えないよ。どうするつもり?」

 恵介が叫んだ。キミは、恵介の体を覆う白い刈布を、頭にすっぽり被せ、そのままにしていた。村上の怪訝そうな顔は、そのせいであったのだ。キミは思わず、恥ずかしくて、手で顔を覆った。

 「いやだあ、ごめん、ごめん、恵介くん」

 キミは、慌てて、恵介の頭から白布を取り、体に被せた。

 「キミちゃん、どうしたのよ。しっかりしてよ」

 由江の手は休まず動いて、前に座った子どもの頭を半分ほど刈り上げていた。由江は、ちらっと村上を見て、微笑んだ。村上もくすりと笑っていた。

 「僕は相即寺へ行って、散髪の済んでいない子どもを呼んできます」

 村上は背を向け、駆け出した。

 「恵介くんの家は酒屋さんなの?」

 キミのバリカンは、恵介の頭をきれいに刈り上げていた。

 「そうなんだけれどね。今は、開店休業みたいなものなんだ。母ちゃんが留守番して、父ちゃんは徴用で近所の軍需工場で働いている。売る物がないからね。月三回の配給の仕事だけらしいよ」

 品川も八王子も同じようなものだった。食料、衣料の生活必需品は配給制となり、充分な暮らしはできなかった。いつも腹を空かせているし、衣服も質素で、継ぎを当ててボロになるまで着ている状態であった。

◇連載は今号で終了となりますが、続きは揺籃社(追分町)から出版されている前野博著「キミ達の青い空」でご覧になれます。(問)【電話】042・620・2626

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