厚木佐藤病院×神奈川中央病院×清川遠寿病院　「認知症月間」
医療が連携し自分らしく、穏やかに暮らせる地域社会へ

　国際アルツハイマー病協会と世界保健機関が共同で制定する「世界アルツハイマーデー」に合わせ、日本でも昨年から９月を「認知症月間」、21日を「認知症の日」と定めました。認知症啓発の一環として認知症治療に取り組む厚木佐藤病院の佐藤史朋院長、神奈川中央病院の能登雅明院長、清川遠寿病院の岩元誠院長に集まっていただき鼎談を行いました。

　-病院の認知症治療について教えてください。

（以下敬称略）

　佐藤／厚木佐藤病院は、神奈川県から委託された「認知症疾患医療センター」として、認知症の専門的な相談・診断・治療や地域連携の推進などを担当しています。厚木市や海老名市など県央地域の医療機関と連携し、重度の認知症患者の受け入れと、身体疾患の治療にあたっています。

　能登／神奈川中央病院の治療方針は患者と家族や介護施設の職員など、患者を支える周囲の人々も含めた「困り感」に寄り添った対応を重視しています。この困り具合や切迫度に合わせて介護者の意見を丁寧に聞き、話し合いながら外来または入院での治療を柔軟に決定しています。

　岩元／様々な問題行動がある場合、精神科の立場からの診断を行います。また当院ではアルコール依存症の治療にも取り組んでいます。アルコール依存症が認知症のリスクを高めることもあり、本人に自覚がないケースも多いので、家族の相談にも応じます。

　-地域で継続的に適切な医療を受けるための病院間の協力について教えてください

　佐藤／昨年より神奈川中央病院の上田聖子理事長が当院で週一度、診察を担当されています。認知症は精神科で治療されることが多いのですが、加齢などによる身体疾患への対応は困難なため、治療の相談が寄せられた場合は当院で患者を受け入れ、認知症と身体疾患の両面から治療を提供しています。

　能登／昨年より佐藤先生に週１回、当院で診察をして頂いています。専門分野を補って頂くことで、患者が他病院に移動する負担も減りました。環境の変化は患者の負担となります。住み慣れた地域で治療を継続できるようかかりつけ医や訪問診療の先生方と連携した取り組みも積極的に行っています。

　岩元／まず、気軽に病院を受診してみてください。状態によって様々な福祉サービスにつなげることもできます。またそれぞれの病院の専門性を生かし病院間で連携を図ることで、患者一人ひとりに最適な対応を見つけ、治療に進みやすくなります。

　-近年の認知症治療や最新治療薬についてのお考えを教えてください

　佐藤／最新の認知症治療薬「レカネマブ」は、初期の認知症や軽度認知障害（ＭＣＩ）に適用されます。当院は認知症が進行し、感染症や食欲低下による脱水症状など、様々な身体疾患をもつ患者の治療を主に行っているため、この薬は使用していません。

　能登／近年の認知症治療では、副作用を抑えながら症状を改善する薬が登場し、ＢＰＳＤ（認知症の行動・心理症状）に対して、眠気が出にくい新しい抗精神病薬が使われています。また、アルツハイマー病の原因物質に作用する抗体治療薬についても地域の医療機関で治療を支援する体制づくりが整うと思います。

　岩元／認知症が治るということは、現在ではありませんが、今は新しい薬もあり、症状の進行を遅らせる事こそが可能です。だからこそ早めの相談や病院の受診が大きな意味を持ちます。治療の開始を早めることで、よりよい生活を維持することに繋がります。

　-地域や読者に一言お願いします

　佐藤／認知症は徐々に進んでいく病気です。認知症が進行すると「ずっと寝ている」「食事を食べない」など最後は老衰と似た状態となります。進行を見据えて、本人が元気なうちに胃瘻などの人工栄養を含めた延命治療について、家族で話あっておくことをお勧めします。

　能登／初期サインは、「昔できたことができない｣｢同じ話を繰り返す｣など、身近な人が気づくケースがほとんどです。｢年だから｣と見過ごさず、早めに医療機関に相談することが大切です。早期発見・早期治療は患者本人が自分らしい穏やかな生活を長く続けられることにつながります。

　岩元／「精神科の分野では、様々な治療プログラムで、患者と家族の心に寄り添ったきめ細かいアプローチを行います。「どこに相談したらいいのか」と悩みがちですが、家族の問題行動などに不安を感じたら気軽に病院に相談ください。