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伊勢原 コラム

公開日:2026.02.28

【寄稿】二宮町の大山囃子の伝承団体「富士見が丘二丁目祭囃子保存会」
タウンニュース市民ライター「相模国神社祭礼・添田悟郎」

  • 箱根駅伝での演奏

    箱根駅伝での演奏

  • 会長の静秀高さん(左)と副会長の静綾子さん(右)

    会長の静秀高さん(左)と副会長の静綾子さん(右)

  • 副会長(指導責任者)の関野裕司さん(右)

    副会長(指導責任者)の関野裕司さん(右)

  • 練習の様子(中央で指導する関野裕司さん)

    練習の様子(中央で指導する関野裕司さん)

  • 練習後の挨拶

    練習後の挨拶

箱根駅伝での応援演奏に密着

 毎年1月の2日と3日に開催される箱根駅伝のコースには二宮町も含まれ、この箱根駅伝の応援のために、二宮町内のいくつかの囃子連が国道1号(旧東海道)の沿道で自主的に演奏を行っている。私は昨年の 2025年(令和7年)7月に行われた元町(富士見が丘一丁目・二丁目・三丁目と松根を含む)の八坂神社祭礼の取材をさせて頂いたきっかけで、同地区の囃子連の一つである富士見が丘二丁目祭囃子保存会(以下、富士見二)の箱根駅伝における活動に取材を依頼した。富士見二は2026年(令和8年)1月3日の復路で演奏し、二宮駅の南口に近い国道1号の南側沿道において午前9時から10時の間で、二宮町の伝統芸能である大山囃子の力強い演奏を披露した。参加した25名ほどの会員が交代をしながら太鼓・笛・鉦を演奏し、後方で待機している会員は箱根駅伝のランナーが通過するたびに、手に持った太鼓のバチを叩いてエールを送る姿が印象的であった。祭り囃子はもともと神社の祭礼で演奏される楽曲であるが、1920年(大正9年)に始まった100年以上続く箱根駅伝という歴史ある行事と、二宮町の郷土芸能が融合する光景には大変感銘を受けた。以下に、富士見が丘二丁目祭囃子保存会の歴史と活動について紹介していく。

 「相模国神社祭礼」は神奈川県内(旧相模国)の神社の祭礼を中心に紹介するウェブサイトで、神社祭礼の活性化を主な目的とし、文献調査と実際の祭礼の取材を行っている。

富士見が丘に太鼓の音色を! 会の発足とその歴史

 富士見が丘二丁目では1985年(昭和60年)5月6日に会員23名で保存会を発足させ、二宮町の「大山囃子」の源流である中里祭囃子保存会の指導を受けた。この当時、富士見が丘二丁目には子ども神輿はあっても囃子太鼓はなく、祭りの度に「太鼓がないと寂しい」という声があったことから、当時の富士見が丘二丁目町内会と有志により何とか太鼓を購入した。いちばん最初に習得した曲は「宮昇殿」で、同年7月の八坂神社の祭礼に向けて3ヶ月ほど指導を受けて練習にはげみ、同祭礼で富士見が丘二丁目として初めて太鼓を披露したのである。その後は「治昇殿」「屋台」「きざみ」「神田丸」を習得し、2004〜2005年(平成16〜17年)に、富士見が丘二丁目よりも6年早い1979年(昭和54年)に発足していた元町北祭囃子保存会から、「四丁目」と「仁羽」の指導を受けて大山囃子の全ての曲を習得した。設立当初は太鼓だけの演奏であったが徐々に笛を習得し、現在では笛の吹き手が多く育っている。また、設立当初は子供を主体とした会であったが、現在は大人の会員も増えてきている。平成の後期あたりから富士見が丘一丁目と三丁目、そして松根地区で希望する人も会員として受け入れており、現在は約半数が二丁目以外の会員となっている。

苦難を乗り越え更なる高みを! 静秀高さんの会を支えた強い信念

 会の活動としては新年の「箱根駅伝」の応援演奏から始まり、地元の「どんど焼き」や「吾妻山 菜の花ウォッチング」、そして社会福祉協議会のイベントなど神社の祭礼以外の活動にも積極的に参加している。現在、会長の静秀高さんをはじめ、副会長の関野裕司さんと静綾子さん、そして副会長兼会計の山崎麻衣子さんの計4名が中心となって会の運営を行っている。静秀高さんは奥さんの綾子さんと夫婦で会の運営に携わっており、さらに3人のお子さんも子供達への指導を担当するなど、家族ぐるみで会の運営に貢献している。

 静秀高さんは2020年(令和2年)に会長に就任したが、就任直後にコロナウィルスが蔓延し、この年から八坂神社の祭礼は数年間の中止を余儀なくされた。さらに活動拠点であった富士見が丘二丁目憩の家も耐震問題で利用できなくなり、会員離れが懸念される状況に陥ってしまった。しかし、このような苦しい状況でも「祭り囃子の伝統を自分の代で絶やすことだけはしたくない」という強い信念のもと、静さんは会長を続けたのである。そのような折、二宮駅前の町民センターで練習ができるようになり、また、八坂神社の祭礼が再開されると、新たに入会してくれる会員が増えるようになった。2025年(令和7年)からは前年に新築された富士見が丘二丁目会館で練習ができるようになり、富士見が丘二丁目祭囃子保存会は再び息を吹き返したのである。静さんは先代から会長を引き継ぐ以前から、「大山囃子系統の他の団体とは一味違う、元気のよい演奏をすること」が富士見が丘二丁目の特色といい、現在でも同会の演奏は人々に元気を与え続けているのである。

大山囃子の伝統を後世に! 関野裕司さんの指導にかける熱い想い

 同会では7月の「八坂神社祭礼」と10月の「二宮町民俗芸能のつどい」に合わせて、5〜7月と9〜10月にそれぞれ9回ほど練習を行っており、練習は土曜日の18時30分から21時までの2時間30分と、一般的な会で行われる練習よりも時間が長いことが特徴である。私は2025年(令和7年)に祭礼前の2回の練習を見学させて頂いたが、副会長で指導の責任者でもある関野裕司さんの的確かつ熱の入った指導に目を奪われた。富士見が丘二丁目では笛に合わせて太鼓を叩くことを重要視しており、関野さんが1曲ずつ細部にわたって入念に確認している様子が印象的であった。長い練習時間を活用して参加者全員が一通り太鼓を叩けるように交代し、全体の技術力向上に努めている姿勢も感じ取れた。難しい曲で太鼓が叩けない場合でも、前方に用意されたタイヤを叩くことで、経験が浅い会員でも最後まで練習に参加することができ、曲数の多い大山囃子を効率的に習得する工夫がなされている。また、元町北祭囃子保存会と同様に篠笛は複数人が同時に演奏するため、笛の吹き手が多く育っていることも注目すべき点である。練習の最後には会の運営者と指導者が子供たちと対面で向き合い、練習での反省点や本番に向けた心構えなどの説明が行われ、子供たちにとって社会生活を営む上で非常に良い教育の場になっていると感じた。

 関野裕司さんは初代会長を務めた祖父の影響を受けて30年ほど前に入会し、そのうちの20年余りを指導者として活動してきた。富士見が丘二丁目の練習は昔から基本を重視する方針であり、関野さんもその考えに変わりはないが、会員の個性や希望を反映させた練習も取り入れ、時代に合わせて全員が楽しんで上達できるような指導にも取り組んでいる。また、関野さんが同会の活動を通じて学んできた「太鼓を叩いて音を出すことの重さや心構え」、「バチや笛などの道具や楽器を大切にする気持ち」など、意識していないと見過ごされてしまう様なことを伝えていくことが、"真の意味での祭囃子保存会のあるべき姿"だと言う。関野さんが指導を受けてきた方々に対する感謝の気持ちや、会員に祭り囃子の楽しさと伝統の奥深さを伝えていきたいという想いが、二宮町の大山囃子系統では最後発である富士見が丘二丁目を、他の囃子連とまったく引けを取らないレベルまで引き上げたのである。

取材を終えて

 私が「富士見が丘二丁目祭囃子保存会」の存在を認識したのは、ほんの半年前のことである。文献調査では同会の名前を目にしていたと思うが、恐らく、新興住宅地の会ということもあり、興味が向かなかったであろうというのが正直なところである。しかしながら、元町北祭囃子保存会の紹介で富士見二の練習を目の当たりにしたことで、私の富士見二へのイメージは大きく覆されたのである。練習の質の高さや会の運営方針など、私自身も地元の太鼓連の運営にかかわる立場として見習うところが多くあり、一瞬で富士見二に魅了されてしまった。富士見二は二宮町の大山囃子系統では最後発の会であり、ここまでの道のりは大変険しいものであったと思われるが、同会の発足に尽力されて来た先代の方々のバトンを受け取り、静秀高会長の運営面と関野裕司副会長の技術面の相乗効果により、現在でもなお更なる成長を続けている。さらに、二宮町という郷土芸能に力を入れている環境にも後押しされ、富士見二の会としての存在自体が、周辺の囃子連によい影響をもたらしているものと思われる。

 実は、来年度となる今年の4月より会の名称が変更される予定で、"二丁目"がなくなり「富士見が丘祭囃子保存会」となる。この話は以前からあったもので、二丁目以外の地区の会員がいることと、それぞれの地区のイベントにも参加していることが理由である。昨今の少子高齢化や後継者不足が不安視される中、静秀高会長は今が変革期だという確信を持ち、「所属している二丁目以外の子供たちが、自分の地区の保存会だと思って活動してもらいたい」という想いのもと、会の名称を変更するという重大な決断を下したことは、今後の同会の活動に大きな恩恵をもたらすものと期待をしたい。

今後も富士見が丘祭囃子保存会の"元気のよい演奏"が、後世に末永く響き続けることを祈願致します。

タウンニュース市民ライターとは

 「タウンニュース市民ライター」とは、(株)タウンニュースが認定する、地域の市民ライターです。市民の視点で地域の魅力を再発見し、情報を発信してもらいます。

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