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横須賀・三浦 社会

公開日:2025.09.26

海底を歩く人間兵器
野比海岸で秘密訓練「伏龍特攻隊」

  • 在りし日の門奈さん(2007年)。当時の設計図をもとに作られた伏龍特攻隊員の縮尺像。現在は、横須賀市・自然人文博物館に保管されている

 第二次世界大戦末期に旧日本海軍が開発した水中特攻兵器「伏龍」の存在を伝える講演が9月21日、横須賀市自然・人文博物館であった。神奈川大学非文字資料研究センター客員研究員の坂井久能さんが横須賀にゆかりのある特攻の事例として紹介した。元特攻隊員の門奈鷹一郎さん(享年85)から聞き取った過酷な訓練の実態、兵器の欠陥、そして多くの隊員が訓練中に命を落とした悲劇の歴史が伝えられた。

人命軽視の水際作戦

「伏龍」は、潜水服を着た兵士が海底で待機して、竹棒の先に付いた15kgの機雷を上陸する敵の船底に突き立てて自爆する特攻兵器。生還を前提としない「決死」の作戦だった。

 隊員は、呼気を浄化して再利用する清浄缶を背負うことで、長時間海底に潜むことができるという画期的な仕組み。戦時中に数々の特攻作戦を生み出した黒島亀人少将が発案したものだった。集められた隊のメンバーは20歳に満たない少年兵で、門奈さんも当時16歳という若さだった。

 作戦に用いられた潜水服は久里浜にあった海軍工作学校(現在の市立横須賀総合高校)で作られ、実際の訓練は野比海岸で行われた。人が吐き出す二酸化炭素を苛性ソーダで吸収し、新鮮な空気を再度送り出す手法により、5時間の潜水が可能との触れ込みだったが、清浄缶は衝撃に弱く、破損すると海水が入り込み、高熱を発して隊員の命を奪う可能性があった。

 久里浜海岸から小船で出船し、訓練場所に向かう。腰に長さ30m弱の命綱を巻きつけて潜水し、その綱を引く回数を合図に船上と交信する。潜水具は70kg近くあり、海底では水圧も加わり、思うように動けない。「作戦では50m間隔で配置につくが、爆破によって周囲の隊員が死ぬことは実証済みだった」と坂井さん。その事実は隊員には一切伝えられなかったという。

 訓練中に最も多くの命が失われたのは、清浄缶の取り扱いに関する事故だった。鼻から吸って口で吐くという特殊な呼吸法を誤ると炭酸ガス中毒を引き起こした。死者数は判明していないが50人程といわれている。海岸に木を積み上げて死体を焼いたという証言もあるという。訓練の途中で終戦を迎えたため、作戦が実戦投入されることはなかったが、「実態について未だ調査・公表はなく、慰霊も行われていない」と坂井氏。国がその全体像を把握しようとしない現状を指摘した。

 坂井氏は「特攻は必ず死ぬ攻撃であり、世界史上でも類を見ない非人道的な作戦」と訴える。二度と悲劇が繰り返されないよう、後世に戦争の記憶を語り継ぐことの重要性を強調した。

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