新型コロナウイルスによる集団感染が発生した大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が、横浜港に入港してから今月3日で1年が過ぎた。乗客乗員3711人のうち、712人が罹患した未知の感染症と対峙する最前線の現場では、検疫や治療にあたる医療従事者らだけでなく、陽性者を安全で迅速に医療機関へ搬送する民間救急事業者の活躍があった。上宮田の「民間救急あゆみ」も尽力。当時の活動の様子や現在の事業などについて、代表の飯島徳貴さんに聞いた。
昨年2月1日、香港で下船した乗客の新型コロナ感染が判明。3日に横浜港に帰港し、4日夜には10人の感染が確認された。以降、消防や自衛隊による搬送が始まったが、6日には新たに41人が陽性になるなど大規模な集団感染に発展。感染者の増加に対応するため、横浜市から民間救急事業者に出動の打診があったという。
翌7日夕方、要請を受けた搬送車3台のうち1台のハンドルを飯島さんが握り、先陣を切って大黒ふ頭を出発。行き先は静岡市立静岡病院だった。当初は神奈川県内の感染症指定医療機関のうち、感染症病床を持つ8つの医療機関(計72床)が患者を受け入れていたが、病床数確保や地域医療への負荷を軽減するため、近隣県の病院に振り分け始めた。これにより、同法人は無症状や軽症者約20人を福島・群馬・長野のほか、400Km以上離れた岩手県石巻市にも送り届けた。世界一周するクルーズ船という特性上、乗車したのはすべて外国人。「感染症対策のため、たとえトイレでも一歩だって車外に出せない。コミュニケーションに苦労した」と飯島さんは話す。
あらかじめ用意された防護服・マスク・ゴーグル・手袋などで完全防備。車内は運転席と後部座席の間を仕切り、1人搬送するたびに消毒や換気の対策を取ったが手探りだったと振り返る。
この時、国内で初めて新型コロナの感染が確認されてから半月余り、実態が現在ほど明らかになっておらず、自治体の指導やそれまでの結核患者の搬送経験などを基に活動にあたったという。
「誰かがやらなければ」
「民間救急」とは、車いすや寝たきりで歩行が困難な人、精神疾患を有する人の入退院や通院、転院など、緊急性の低い移動を請け負う民間事業者のこと。消防救急とは異なり、医療行為や赤色灯・サイレンを使った緊急走行はできない。
同法人は2015年に横須賀消防局から認定を受け、約20人が勤務。通常業務と切り離した上で、クルーズ船関連の活動を終えた昨年3月以降も自治体からの要請を受けて、コロナ対応業務を継続する。搬送人数は2千人超。陽性者のほか、タクシーや公共交通機関の利用を避ける濃厚接触者を自宅からPCR検査場に直接送迎する。
「緊急走行ができないとはいえ、運ぶのは同じ命。感染を拡大させないためにも誰かがやらなければならない仕事」。当時、大黒ふ頭の様子が連日報道され、待機する車列に同法人のワゴン車を目にしたと思われる人たちから誹謗中傷を経験した。それでも継続するのは、「消防救急がコロナ重症者の搬送や従来の119番要請に出動するための民間の役割」だと言い、毅然と対応する。
2回目の緊急事態宣言の期間が延長され、感染リスクと隣り合う緊張の日々は続く。「コロナの怖さは間近で見てきたが、消毒の仕方ひとつにしても得たものは多い」と飯島さん。「スタッフの意識改革やレベルアップができた。今後の搬送業務にこの経験をいかしたい」と語った。
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