三浦 教育
公開日:2023.04.14
黒板アート&ヘアドネーション
初声中美術教諭 上田さんの春
「お前を助けてやるから…俺を助けろ」――。
初声中学校美術科教諭の上田博幸さんは3月末、人気漫画『チェンソーマン』のワンシーンをモチーフにした黒板アートを完成させた。
新入生を歓迎するため、昨春(前回は『鬼滅の刃』だった)から始めた取組。指や消しゴムで色を消すことで黒線に見せたほか、筆や雑巾でぼかしを入れ、細部までくっきりと表現した臨場感あふれる作品になっている。仕事前の朝に少しずつ描いていき、制作には約1カ月を費やした。
同校の町田直軌校長が生徒の前であいさつした際、「助け合いの心」という言葉を聞いた瞬間、この画がふと浮かんだ。「今度は子どもたちにも挑戦してもらおうかな」と上田さん。黒板アートは、美術室でGW前まで見られる。
そんな上田さんと記者が出会ったのは、美術教員たちが昨夏に開いた展覧会での取材だった。長い黒髪を後ろで束ねた個性的なスタイルは、職員室の中でもひと際異彩を放ち、「アートの世界に身を置く人は独特の空気を纏っているんだ」と思っていた。しかし、年が明けて上田さんに再会すると、病気などで頭髪を失った子どもに医療用ウィッグを届ける目的で自身の髪を無償で提供する「ヘアドネーション」に挑戦するために髪を伸ばしていたという。
ここ数年、3人の生徒が急にショートカットになった理由を尋ねるとヘアドネだったことを知り、上田さんも影響された。夏の暑さにも耐え、1年以上が経った4月上旬、久里浜にある美容室「SARAH」でいざ散髪。スタッフによると、同店で男性による髪の寄付は初だという。バッサリと切った髪の長さは20cmほどだが、ウィッグ1体作るのに30〜50人分が必要で、娘の陽和ちゃん(小1)も生まれて初めて髪を切って一緒に寄付。帰り際、上田さんは「役に立てて嬉しい」と爽やかな笑みを浮かべた。
いつも静かな美術室には、上田さんのアートに対する情熱と温かな心で満ちていた。
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