プロを目指す指揮者で、葉山の高齢者施設でボランティア演奏会を行っている 石坂 幸治さん 葉山町下山口出身 23歳
心の栄養になる演奏を
○…「ブラボー!」。音が鳴りやむと歓声と温かな拍手が会場に響き渡った。祖父母が利用するデイケア施設で元気を届けようと始めた演奏会。7回目を迎えた今回も大学の同級生に協力を仰ぎ、声楽とピアノで歌謡曲からクラシックまで十数曲を披露した。今では訪問を心待ちにするファンも多く、自分たちの音楽で大好きな祖父母や利用者の人たちが喜んでくれる。それが何よりのやりがいだ。
○…定員わずか2名と超難関で知られる東京藝大音楽学部指揮科を一昨年の春に卒業。現在は欧州でも屈指の名門校、スイス国立チューリッヒ芸術大学に在籍し、プロを目指して日々勉強を重ねている。指揮者を意味するコンダクターの語源は「導く者」。海外ではタクトの振り方だけでなく、指揮台での立ち振る舞いや話し方一つでオーケストラの演奏はがらりと変わる。例えば不用意に『すみません』と口にした途端に演奏の調和が乱れるのもざらだ。実習ではプロを相手にすることも多く、「今の自分には大事な経験。すごく鍛えられます」とほほ笑む。
○…大切にしている言葉がある。藝大に入学したのは東日本大震災から間もなく。全国に自粛ムードが広がるなか入学式も中止になり、心の中で「音楽をやっていていいのか」とためらいもあった。その時指揮者で同大名誉教授の尾高忠明氏は「音楽は人の心の栄養になる。大変な時期だからこそ、僕たちは音楽をしなければいけない」。心の栄養になる演奏を聴く人に―。その思いは今も根底にある。
○…生まれ育った葉山に帰ってくるのは年に数日。束の間でも、真名瀬から富士山を望んだり、一色海岸の砂浜を歩くと心が安らぐ。海や山、幼少から慣れ親しんできた豊かな自然を思い浮かべると「葉山に生まれて良かった」と相好を崩す。休息を終えればまた海外での生活。言葉に音楽、勉強すべきことは山積みだが、「しっかり頑張っていきたい」と未来を見据えた。
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