このほど「江の島」「湘南海岸」2つの鳥瞰図を制作したデザイナー 市川 勝典さん 鵠沼海岸在住 76歳
だから、やめられない
○…鳥瞰図や俯瞰図、パノラマ図なんて呼び名もある。要は、空飛ぶ鳥の目線で描いた絵図なのだが、これが途方もない。仕上げたのは、江の島を基点に湘南海岸を一望する2作品。視野に入る建物の1軒1軒を描き込む緻密さで、完成まで実に3年を費やした。よく目を凝らしてごらん。あなたの家もきっと見つかるから――。
○…映画看板製作・デパートの装飾・絵馬製作・ジオラマ模型製作…。若い頃から依頼があれば何でも率先して請け負った。初めて鳥瞰図を手掛けたのも、40年以上前、故郷の福島県三春町で個展を開いた際に「城下の絵図を作りたい」という地元住民の要望から。その後も鎌倉や箱根など、幾度となく描いてきたが、一方である思いを温めてきた。「予算や納期にしばられず、納得いくまで描いてみたい」。仕事が一段落し、手掛けた2作品はその第一弾。散歩コースだった江の島周辺の下見を重ね、夜更けまで時間が経つのを忘れて製作に没頭した、いわば集大成だ。作品を振り返り「満足に近いものができたかな」と朗らかにほほ笑む。
○…時代の変化で、カメラマンや写植を生業にしていた仲間が次々と辞めていく中、フリーランスの立場を貫いた。「僕みたいのは駄目なんですよね」と自嘲するが、後悔しているかとの問いには「してません」ときっぱり。看板も絵図も店舗装飾も、衆目にさらされてこそ仕事の成果が現れる。鳥瞰図もそうだ。だから、やめられない。
○…実は新作の製作も進んでいる。江の島を直下に望み、360度を見渡す、大胆な構図ながらこれまた緻密な労作だ。その先の構想もある。鎌倉も、故郷の街並みも今一度描いてみたい。筆を置くのは、どうやらまだまだ先になりそうだ。