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藤沢 スポーツ

公開日:2026.10.02

辻堂元町在住、還暦の池田直弥さん 限界はガードごと打ち破れ リングで狙うはあくまで勝ち

  • ミット目がけて鋭い蹴りを放つ池田さん=先月10日、湘南格闘倶楽部

    ミット目がけて鋭い蹴りを放つ池田さん=先月10日、湘南格闘倶楽部

 「何事も始めるのに遅すぎることはない」――。リングサイドでそう語りながら握りしめた拳に目をやるのは、辻堂元町に住む池田直弥さん(60)。医師として多忙な日々を送るかたわら、今月12日(月)に秩父宮記念体育館で開催される格闘技の祭典「湘南ファイトチャレンジ」(SFC)に出場する現役のキックボクサーだ。熱く激しくサンドバッグを叩く姿から勝利への執念がにじみ出ている。

 池田さんが格闘技の世界に足を踏み入れたのは48歳の秋。きっかけはアンチエイジングだった。タイガーマスクに胸を熱くした少年期を過ごしたが、「運動経験といえばラグビー。それも補欠くらいで」と自嘲する。

 体を鍛え直そうと決意した理由は医師ならではの理由だ。「若くして脳の病気で、体が不自由になってしまう人をたくさん見てきた。だったら私は、脳と一緒に体も同じくらいボロボロになるまで使い倒してやろうと」

 鵠沼東のジム「湘南格闘倶楽部」が開設されるとほぼ同時に入会した。しかし本気で打ち合うとなれば、家族の反応も気になるところ。「最初の10年くらい、家族には内緒で」。ジムの練習着は自宅に持ち帰らず、自身のクリニックでひそかに洗濯し隠す日々が続いたが、「いつしか家族も知っていた。でも見事なまでの無関心」と少し照れくさそうに明かす。

 ジムの会長で、魔裟斗選手と故・山本”KID”徳郁選手の試合でレフェリーを務めた岡林章さんが「おじさんたちの発表会」として企画したSFCへの参戦。初陣の記憶は「怖くて訳が分からないうちに終わっていた」と振り返るが、積み重ねたキャリアは伊達ではない。通算成績は4勝3敗。「一応勝ち越している。だからもう引退しようかなと思ったくらい」と冗談を飛ばす。

 ただ分析力と戦術はロジカルだ。以前は後先考えず突っ込むインファイターだったが、今では相手の動きを冷静に見極める成熟したスタイルへと進化。減量期に入ると好きな酒を断ち、塩分を控え、73kgの体重までストイックに体を絞り込む。

 「15ラウンドなんて若者に勝てない。でも2ラウンドだったら勝機はある。それでも恐ろしく長く、ボディーをもらうと息が止まるほど痛いけれど」。みっちり汗をかいた練習が終わると体重は1kgは落ちるが、「家に帰ってご飯と水を摂ったら元通り」と笑う池田さん。その表情には、充実した人生を全力で駆け抜けてきた余裕すら漂う。

 本番の対戦相手は、茅ヶ崎市にある湘南魂スポーツジムに所属する永井舟司さん(56・羽鳥在住)。蹴りでタイミングを取りながら前に出る選手で、永井さんは「だんだん強くなっている。体調も良い」と自負する。

 「真面目にこつこつと頑張っている。けがだけしないように」と背中を押す岡林さんの言葉に、池田さんは「蹴りが課題。でも伸びしろだらけですから。思い立ったら一歩踏み出してみること。人生は短い。やりたいと思ったその時が、いつだって一番若い瞬間」と爽快そうに語る。

 還暦の打撃が描く軌跡は、挑戦をためらう大人に勇気を与えてくれる。

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