藤沢 トップニュース経済
公開日:2026.10.23
光書房 古本届けた44年に幕 店主の戸田さん、地域へ感謝
「ありがとうございました」――。来店客の背中に投げかける言葉の奥には、半世紀近くまちの活字文化を支え続けてきた誇りと、温かな人情がにじんでいた。藤沢駅北口で長年親しまれてきた古書専門店「光書房」(藤沢1015)の店主を務める戸田光さん(76)は、今月いっぱいで店を畳むことを決めた。常連客や地域住民からは別れを惜しむ声が相次いでいる。
自分だけの城
戸田さんが古本の世界に飛び込んだのは10代。定時制高校に通う条件として職場を探していた自身を受け入れてくれたのが、辻堂にあった古本と新刊を扱う書店だった。
その後、小田原の古書店へ。ある日、仕事で藤沢市文書館を訪れた帰りのこと。ふと通りがかった道で「貸店舗」の張り紙が目に留まった。「26坪。自分にはとても無理だ」と一度はあきらめかけたが、家賃を聞いてみると月15万円だった。「これならできるかもしれない」。1982年、戸田さんは独立した。
以来44年。店内には歴史や宗教、哲学のほか、箱入りの美術書、戦前の鳥瞰図、絵はがきの数々が所狭しと並ぶ。漫画や流行小説は置かず、厳選した質の高い本だけを集めた棚づくりを貫いてきた。ページをめくれば、熱量が立ち上るような一冊との出合いを求め、多くの人が通い詰めた。
消えゆく書店
戸田さんが店を構えた昭和から平成初期にかけて、駅周辺には9つの古書店が軒を連ねていたというが、時代の波はまちの風景を変えていった。
(一社)日本出版インフラセンターの調査によると、全国の書店数は98年の2万4237店をピークに減少へと転じ、2025年には9993店と1万店を割り込み、27年間で58・8%ほど急減。電子書籍の普及やネット通販、大型店の台頭などが要因とみられ、藤沢からも一軒、また一軒と灯が消えていった。
「閉店の理由は売り上げ低迷」と寂しげに笑う戸田さん。近年の猛暑や長雨で客足が止まり、一人も来ない日が続いたこともあったという。
無言の対話
18日午後4時、「半額」の文字に吸い込まれるように、店内へと入っていった19歳の女性は大きな袋を抱えて出てきた。数冊の本を購入したようで、「スマホよりも昔の本の方が情報がぎっしりと詰まっているし、詳しい」といい、喜々とした表情で店を後にした。
戸田さんは「活字離れと言われるけれど、やはり紙の本でないと頭に入ってこないこともある。文章から知識を得る楽しさを知っている」とうれしそうだ。
閉店の知らせが広まると、戸田さんのもとへ感謝の声が寄せられた。「普段はお客さんとあまり話さないから、こんなに気にしてくれてるなんて思わなかった。驚いたし、ありがたかった」。人付き合いは不器用だったと振り返る戸田さんだが、棚越しに交わされた無言の対話は来店客の心の中に記憶として刻まれていた証でもある。
店舗は一旦の幕を下ろすが、戸田さんの本への情熱はついえない。今後もネット通販は続けていくという。「市場で本を選ぶのは楽しいから」
戸田さんはきょうも静かに、愛おしそうに棚のほこりを払っている。
ピックアップ
意見広告・議会報告
藤沢 トップニュースの新着記事
コラム
外部リンク
- LINE・メール版 タウンニュース読者限定
毎月計30名様に
Amazonギフトカード
プレゼント! -

あなたの街の話題のニュースや
お得な情報などを、LINEやメールで
無料でお届けします。
通知で見逃しも防げて便利です!












