4月3日からそごう美術館で個展を開催する書家 船本 芳雲さん 寺分在住 71歳
書の「深淵」追い続ける
○…故郷・石川県珠洲市の風景や心象を綴った自作の詩を、多彩な書で表現した個展「沁みいる故郷」が4月3日から8日まで、「そごう美術館」で開催される。期間中は10mを超える大作など50点以上を展示。「書という芸術をより身近に感じてもらう機会になれば」と柔和な笑顔を浮かべる。
○…高校卒業後、当時の国鉄に入社し鎌倉へ。先輩に社内のサークルに誘われたことがきっかけで書を始めた。上達すればするほど「もっと上手くなりたい」という欲が芽生えた。購読する書道雑誌の編集者、青木香流さんの教室が横浜にあると聞き入門。この出会いが人生を変えることになる。「先生はとにかく魅力的な人で、一緒にいることが楽しくて仕方がなかった。時間さえあれば先生のところに入り浸っていたから、妻に『うちは母子家庭だったかしら』と言われましたよ」と苦笑する。40歳を迎えた時、「そろそろ書に専念したら」の一言をきっかけに、師が経営する書道雑誌の出版社に転職。以来、書の道を邁進してきた。
○…発表する作品は現代文を素材に漢字とかなを交えた「近代詩文書」が中心。それは書に対する「何が書かれているのか分からず難解」という、イメージへの危機感からだ。「社会から遊離してしまった芸術に未来はない。文字だからこそ何が書かれ、それをどう表現しているのか、伝わることも大切」と力強く話す。
○…最近では仲間とともに、小学3年生で始まる書道教育を「1年生から」と活動する。「キーボードと違って筆は、強く押し付ければ太く、引けば細い字になる。書は人間の感性の根幹につながりそれを育てる力があるんです」と語る。昨年は毎日書道展で文部科学大臣賞を受賞。現在の書壇を代表する一人として活躍する今でも「これでいい、究めた、と思ったことは一度もないですね」と噛みしめるように話す。「書の深淵」を追い求める歩みは、これからも続いていく。