鎌倉国宝館の館長に就任した 山本 勉さん 海老名市在住 67歳
「新しい価値」求め続けて
○…仏師・運慶研究の第一人者が4月から、鎌倉国宝館の館長に就任した。「学生時代からよく来ていた場所ですし、大きな責任を感じています」と語る。
○…横浜生まれ。絵を書くことが好きで「大学で美術を学んで、ゆくゆくは漫画家に」と将来像を描いていた。中学の時、意を決して石ノ森章太郎氏の事務所を訪ね、作品を見せたことがあった。石ノ森氏は「いいね」と言ってくれたが、主人公の内面を描いた暗いストーリーに、居合わせた赤塚不二夫氏から「中学生がこんな漫画を描いちゃいかん」と言われたという。ショックを受けたものの、見ず知らずの子どもにも真剣に怒る姿に「この人にはかなわない、と漫画家の夢を諦めることができた」。
○…東京藝術大学に進み、美術史を学んだが「絵画や彫刻など自ら作品を生み出す人にコンプレックスがあった。私は何をやってるんだろうと、酒ばっかり飲んでいた」と振り返る。転機は大学2年の秋。調査のために赴いた奈良で、運慶の作品に出会った。「仏像を調べ、記録し、発信する。そのことに自らの価値を見つけることができた」。その後は東京国立博物館や清泉女子大学に勤務しながら、講演や執筆活動を通じて昨今の仏像ブームをけん引してきた。
○…「今でこそ運慶は多くの人に知られているが、それ以前に長い研究の蓄積があった。知られていないものに光を当てるのも学芸員の仕事」と話し、後輩の研究者には「今は無名なものでも、自分で新しい価値を見つけ世に広めてほしい」とメッセージを贈る。気分転換の方法を尋ねると「仕事かな」と、家でも研究や執筆に没頭する。「体が動く限りは、若い人と一緒に研究がしたい」と笑った。