鎌倉 コラム
公開日:2026.01.30
鎌倉のとっておき 第189回
かまくら花めぐり桜
日本の春の象徴、桜。薄紅色に咲き誇るも儚(はかなく)く散りゆくその姿から、古(いにしえ)の人々の心を魅了し、多くの歌が詠まれている。
平安期に編纂された『古今和歌集』では、在原業平が「世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」と、人の心を掻き立てる美しい桜への思いを詠っている。また鎌倉期に源実朝が編纂した『金槐和歌集』では、実朝が「行きて見むと 思ひしほどに散りにけり あやなの花や風立たぬまに」と、風も吹かぬ間に散ってしまった桜花への失意を詠っている。
こうした桜について、鎌倉には古の伝説や由緒を纏(まと)う花々がある。
はじめに安國論寺の妙法桜。この八重桜は、『立正安国論』を著した日蓮上人が地面に突いた杖から根付いたものと伝わる。染井吉野が盛りを過ぎる頃、真っ白に咲く花々は可憐で初々しく、市の天然記念物にも指定されている。
次に極楽寺の八重一重咲分(さきわ)け桜。一つの枝に薄紅色の八重と一重の花が咲き、8代執権・北条時宗のお手植えと伝わる。この花には江戸初期、後水尾天皇が咲く花の前を通った際、その美しさに牛車を引き返して再見したとの伝承もあり、別名・御車(みくるま)返(がえ)しともいわれている。
そして鶴岡八幡宮の実朝桜。この八重桜は、源実朝の首塚がある秦野市から移植され、実朝を祀る白旗神社前で淡紅色の花を咲かせてくれる。
陽春の古都鎌倉。伝説の桜も美しい彩(いろどり)を添えてくれるまちである。
石塚 裕之
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