植物画(ボタニカルアート)の教室を主宰している 松本 千鶴さん 紅谷町在住 59歳
植物の瞬間 描く
○…デッサン用のシャープペンシルと筆、水彩絵の具というシンプルな画材で、植物を精緻に描く植物画(ボタニカルアート)に魅せられ、自宅などで植物画教室を主宰する。「雌しべや葉脈、茎に生えた毛の様子。実際に描くことでいろんな発見があり、美しい自然を自分なりに表現することは本当に楽しくて」。静謐な語り口は、しおらしさをたたえた作風にも通じる。
○…東京芸大在学中は、美術史や美学などの体系的な学問が肌に合わず、技法を学んだ日本画にも、自身の志す芸術のあり方を見出せなかった。植物画と出会うきっかけは、卒業後に美術教師として赴任した中学校の同僚で、今は亡き夫の存在。「植物が専門だった夫がプレゼントしてくれた洋書に描かれた植物画を見たとき、私はこういう絵を描きたかったんだと感じたんです」。
○…野草を描く際は、以前住んでいた大磯町まで摘みに出かけることも。「いつどこにどんな花が咲いているのかは、ちゃんと頭の中に入っているの」と、採集日や場所を記したノートを嬉しそうにめくる。様々な表情や色合いを見せる植物の成長過程の中でも、枯れて色あせた姿を描くことに魅力を感じるという。「ほら、とても渋くて綺麗な色でしょう」と”自慢の枯れ草”を手に愛おしそう。小さな命を全うし、どこか哀愁を帯びた雰囲気を表現するには、水彩特有の淡い色使いがしっくりと馴染む。
○…美術評論家のジョン・ラスキンが残した『1枚の葉を描く者は世界を描く』という言葉が、創作活動の根底にある。教室の生徒にも、始めに1枚の葉を描くテーマを課している。「芸術だからと身構えず、植物のありのままの姿を描く楽しさを知ってもらえたら」。芽吹き、花が咲き、実をつけやがて枯れていく。植物の儚い一生と対峙し、「今この瞬間」を描く。
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