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創立の地小田原で、116周年 建学の精神の今日的意味を問い続ける 新名学園旭丘高等学校 理事長・学校長 新春インタビュー
建学の地、小田原で116周年を迎えて
――旭丘高校の年間教育活動計画に、「建学の精神を想う日」が位置付けられています。まず新名学園創立者新名百刀女史の建学の精神についてお話を伺いたいと思います。
「本校では毎年、学園創立者新名百刀先生の遺徳と遺訓を覚え、命日の9月16日の週、すなわち9月の第2月曜日を「建学の精神を想う日」として、10月1日の誕生日の開学記念日と共に位置付けています。この日は、学園代表の理事長・学校長と同窓会長・同窓会代表、生徒会代表が菩提寺、箱根板橋の光円寺を訪ね、新名先生の遺徳を偲び、墓参と回向を行い、生徒と保護者、教職員には資料を配布し、その今日的意味を共有しています。
当校の前身、新名裁縫女学校は1902(明治35)年、大垣藩士の娘・水野百刀が共立女子職業学校編物本科を卒業、同校の助教授を勤めた後、私立渡辺裁縫学校(現東京家政大学)を卒業し、小田原に「裁縫・造花・編物伝習所」を開設。1906(同39)年に神奈川県知事の認可を得て、近代的な学校制度・組織の私立女学校へ発展したものです。
新名裁縫女学校は二宮尊徳の報徳四訓(至誠・勤労・分度・推譲)を教育方針に、「一円融合」の哲学思想の下、今でいう差別と競争のない社会、農村復興のための自助・共助・公助・絆の力、個人の生命と社会的な平和などを実践。その精神は現在の「生活と教育の結合」による全面発達を目指す教育目標と、女性の「社会的自立」を育む教育方針で、今後も継承・発展すべき意義があるものです。」
――「小田原に根づく学校」を表す、建学当時のエピソードがあればお聞かせください。
「関東大震災では、小田原は多くの家屋が倒壊・焼失しました。現在の三の丸小学校正門前、大久保藩隅屋敷跡にあった新名女学校は、大破したものの火災は免れました。新名校長は校舎を避難所にして被災者を励ましたといいます。震災2カ月後には教室も修復され、学校は再興に向かいました。その資金は、地域に嫁いだ卒業生が婚家に遠慮しつつ月々のお小遣いを2年間ためて、「新名(にいな)のために」と浄財を拠出したものです。
現在の本校は第一校地の弁財天通りに面する側に地域防災倉庫を備え、毛布や乾パン・飲料水など災害に備えた物品が備蓄され地域貢献を進めています。こうした防災対策には、当時の教訓が生かされています。」
今日の学校づくりに生きる建学の精神
――今年、創立116周年を迎えましたが、建学の精神の今日的な継承と、改めての学校づくりの「基(もとい)」は?
「青年期は自我と社会性に目覚め、様々な葛藤を通して社会的精神的自立、自己の確立を遂げていきます。この青年期に必要な学びは、生命・生活の「生」、男性・女性の「性」、政治の「政」の「三つの『せい』」で表すことができます。本校では青年期の自立と学びに応えるべく、「生活と教育を結合させる」視点で様々な教育課程を用意しています。
また、本校が全学と地域との共同で学校づくりを進める取り組みの「環」としているのが「全学協議会」と「全学教育研究集会」、「新名学園私学教育研究所」の活動です。全学協議会は2004年に結成され、毎年数回開催され、生徒会が代表を組織し、学校の施設設備から授業・カリキュラムづくり、校則問題などについて六者懇の皆さんと共に討論されます。18歳選挙権の社会に必要とされる「人間力」「社会力」を育てています。
全学教育研究集会は1961年から56年間継続して毎年積み重ねられてきた、よりよい学校、授業・教育課程づくりを話し合う場です。生徒・保護者・同窓生や地域の方々も参加し、公開研究授業を参観して共同検証。シンポジウムで学校や授業、カリキュラムのあり方を考えます。今年の教育研究集会は1月26、27日。11教科の公開研究授業と総合学習、生徒による「インターンシップ」に係る報告と事業者などからの活動評価が行われます。
新学習指導要領では、新しい時代に必要な資質・能力が問われています。本校では子どもの声を成長・発達の道筋に返す視点で授業実践やカリキュラムづくりを行っています。」
グローバル教育その新たな進展
――創立110周年を機に展開して来た国際連携教育。中国の姉妹校との進展は?
「中国の姉妹校西安外国語大学附属外国語学校とは、西安碑林博物館で『書経』の大禹謨にある碑の読み取りを日中高校生で行ない、現在の日本の年号「平成」の出典碑にも触れ「地(ち)平天成(へいてんせい)」から「地稔り豊かな時、天穏やかに成る」を共有しました。
昨年3月、西安外国語大学附属西安外国語学校の校内に設置された、国際交流と友好を象徴する庭園「友誼苑」の開園セレモニーが行われました。式典には、私が団長の第4次訪中団(生徒9名・教師7名)が参加。「友誼苑」には西安外国語大学附属西安外国語学校と姉妹校関係にある日本(旭丘高校)・アメリカ・カナダ・フランス・ドイツ各校の教育目標などを示す掲示板が設置され、それぞれの国を代表する樹木が植えられます。
この式典の場で、本校と西安外国語大学附属西安外国語学校との第3次姉妹校協定書が、西安外国語大学学長及び西安市教育長の立ち会いのもとに取り交わされました。協定書に基づき、現在西安側は日本に留学を希望する生徒のため、外国語学校内に旭丘高校の教育課程を取り入れた新たなコースを設置。旭丘側からは、学園の新総合計画にそって日本への留学生(試験)に対応する専攻科等のコースを設置する取り組みが両校に置かれたプロジェクトチームの共同でこれが進められています。
また、河南省安陽市開発区高級中学(日本の高校)との間でも、一昨年11月1日に姉妹校提携が結ばれました。協定書には、「両校の交流・連携が安陽市と小田原市に所在する学校及び教育機関相互の交流に結びつき、これを両市の各分野の活動に発展させるものとなるようにする」と位置づけられています。
昨年8月には、小田原市長が参加する西湘日中友好協会の訪中視察団が安陽市を訪問し、私もこれに同行しました。小田原市と安陽市との日中地域連携づくりを展望した両校・両市の交流連携の深化を図り、地域からの日中グローバル活動の縁の下の力持ち役を果たしたいと思っています。」
文化スポーツの活躍学校づくりの発展
――スポーツ・文化の分野では、生徒の目覚ましい活躍が見られます。
「昨年8月の大相撲「小田原場所」では、第二校地相撲場で10回の「ちびっこ相撲教室」を行い、また生徒会が90名のボランティアを組織し、会場設営やちびっこ相撲のサポートに活躍し、吹奏楽部はバトン部とコラボ。地域巡業に彩りを添え、地元の方々から評価をいただきました。
相撲部は一昨年の全国大会団体戦出場に続き、個人戦でモンゴルからの留学生で2年生のチョイジルスレン君が出場し、予選を2勝1敗で通過。全国ベスト32決定戦に進みました。もう一人のモンゴル留学生ダライバートル君は、昨年10月の関東高校選抜相撲大会個人戦無差別級で準優勝しました。
昨年は、大相撲伊勢ヶ濱部屋に高木大貴君(平塚山城中学校出身)が入門。新弟子検査に合格して新名学園の一文字を採った「新富士」のしこ名を伊勢ヶ濱親方からいただき、1年前の矢野雄一郎君(桜富士)(南足柄岡本中学校)に続く角界入りとなりました。
陸上部では3年生の山内滉士郎君(小田原橘中学校)が、全国高等学校陸上競技選抜大会2000m障害で全国5位に。陸上部は丹沢湖で開かれた神奈川県高等学校駅伝競争大会に、チームとして標準記録を突破して出場資格を獲得。初参加ながら母校の襷をつなぎ、参加70校中42位の成績をあげました。この大会には生徒会がバス1台の応援団を組織。学校をあげて声援を送りました。さらに、ボウリング部は男子3名・女子3名が神奈川県を代表して昨年年末に開催された全国大会に駒を進めました。
サッカーJリーグ下部組織で鍛えてきた3年生の和田響希君(小田原酒匂中学校)が湘南ベルマーレに入団。同じ3年生の篠崎勇也君(平塚旭陵中学校)が第35回硬式空手道全国選抜優勝大会で初優勝し、東京オリンピックを目指し現在大学の武道学科への挑戦を続けています。地域のダンスチーム(HANAエンタープライズ)で活動する3年生の田中紗来さん(横浜飯島中学校)と1年生の石川渚さん(茅ヶ崎第一中学校)は、アメリカで開催のヒップホップ世界大会「ワールド・ヒップホップダンス・チャンピオンシップ」に三連覇をかけ挑戦。惜しくも準優勝でしたが大活躍でした。
文化分野でも優れた成果があげられています。浅倉梨理さん(真鶴中学校)は「二科展」(絵画の部)で3年連続入選。旧年3月に卒業した高橋彩香さん(秦野南が丘中学校)、梅林栞さん(開成町文命中学校)が国際高校生選抜書展(書の甲子園)に入選、書道部の生徒たちは小田原市民書展の連続入選。国税庁主催高校生税の作文コンクールで、1年生の平子七佳さん(茅ヶ崎浜須賀中学校)が小田原税務署長賞を受賞。本校は3年連続の受賞などです。」
――こうしたスポーツ・文化の分野での生徒たちの活躍を生み出した力とは?
「創立者の新名先生は、「無くてはならぬ指折り仲間の一人になれ」とよく講話されていました。生徒一人ひとりの求めや課題に応え、一人ひとりの可能性を伸ばす教育課程づくりの発展。その現段階としてのスポーツ進学クラスの開設などが、大きな力になっています。スポーツ進学クラスのカリキュラムづくりでは、基礎となる科目「基礎体力」を新設。こうした授業・カリキュラムを保障するために、科学的トレーニングができる機器やボルダリングウォールを配置した教場整備などを行ってきました。
また、このような生徒たちの文化・スポーツ活動が地域参加、社会参加、国際連携と結びつき、全校生徒の意識を高めていることも、本校の大きな特徴だと考えます。」
現代社会の課題に応える私学像の創造
――現在、教育の無償化の問題が国民的な関心事となっています。また学習指導要領改訂告示(高校)も近づいています。旭丘高校は無償教育を学校づくりの基調としてきました。
「人類史700万年のほとんどの期間は、少人数で狩猟採集生活を営み、その過程で人間の本質、共同性が形成されました。とくに、最も重要な子どもを育て子孫を残す困難な営みに、共同体の人々が総力を挙げてきた無償教育が、人類の生存と進化の原動力でした。
世界史では紀元前5世紀の古代ギリシャに有償教育批判が登場し、18世紀末のフランス革命期に「教育を受ける権利」と無償教育の一体的思想が登場。20世紀半ば過ぎに、国際人権規約に人類普遍的人権として確立。それが、21世紀以降の羅針盤となっています。
また人類史的課題とかかわって、本校の生徒たちが33年間継続して長崎修学旅行で触れ合ってきた被爆者の方々の訴えが、昨年度「核兵器禁止条約」の国連採択、非政府組織ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のノーベル平和賞受賞として実りました。「核と人類は共存することが出来ない」とした被爆者の平和への意思を受け継ごうとする若者たちの姿に人類の未来を拓く力を感じます。
私たちは一八年前に男女共学制を実施したとき、「男性」と「女性」の間に存在する差別の問題とともに「障害者と健常者」「白人と黒人」「外国人と同国人」がお互いの人権を尊重し合い共に社会をつくっていく課題と結んだ「共生」の意味を本校私学教育研究所の教育実践者の集団と研究者との間で学び合いました。
本校は、こうした「共生」の視点をふまえ、国際人権規約に基づき、子どもを「社会の宝」と考え、国民みんなでお金(税金)と力を出し合って未来の主権者を育てていく無償教育の考え方を学校運営の理念とし、「公費私学」、「地域立・市民立」を21世紀の私学像と位置付けています。生徒会と六者懇談会とが全校を挙げて私学助成金運動に取り組み、この運動を通して生徒自身が「学ぶ意味」を獲得しています。」
――少子・高齢化も大きな国民的課題です。
「たとえばフランスは1世紀にわたって少子化問題に取り組み、高校までの学費は原則無償で、多くの学生が給付制の奨学金を得ています。学費や教育費が負担で少子化が進むのは、社会を危機に陥れる今日的問題です。
また、依然として子どもの貧困が問題となっています。国際人権規約にも「保護者が、公の機関によって設置される学校以外の学校でも、児童のために選択する自由を有することを尊重する」とあるように、公立、私立を問わず、教育費問題は健全な社会の未来を築く基盤としてとらえていくべき課題です。」
――そうした社会情勢の中で迎える本年、新たな学校づくりの展望をお聞かせください。
「2022年・創立120周年へ向けた学校づくりを展望するいま、地域社会の子どもたちの状況や学校をとりまく情勢の深刻さを視野に入れて考えることが重要です。この時、幾多の試練を乗り越えて来た新名魂は、子どもたちの学習や生活に現れる否定的現象の中にも肯定的な芽をつかみ取り、学校づくりではピンチをチャンスに変える視点を重要視すべきことです。創立110周年に策定した新総合計画の展開が中間年を迎える今、その伝統を継承・発展させ、一貫教育を展望して計画に盛り込んだ、上に専攻科等、下に「こども園」を設置する構想について、地域的課題である「言語・情報・観光などの教育」課程づくりを準備することなど、生徒の発達要求に応え、社会の要請に応える多様なカリキュラム創設をさらに進めていく必要があります。
明治期に女子の人間教育の先駆けを築いた建学の精神を継承し、世代的継承の課題を果し、地域に根差した学校づくりを更に前進させていく所存です。」
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こどもタウンニュースけんせい4月18日 |
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