秦野 はだのっ子 いま・みらいコラム
公開日:2011.03.19
はだのっ子 いま・みらい
教育寄稿第26回
ばあちゃんにはかなわない
内藤 美彦
「ぞうきんをしっかり絞れますか。箸の持ち方・使い方は正しいですか」。そう問いかけられて、子供を観察してみると、ぞうきんを丸めて両手で押していたり、ぞうきんを絞る両手の甲が同じ向きで、力が入らなかったりしている例がありました。箸や鉛筆も正しい持ち方をしていない子がだいぶいます。
効率性や見た目の美しさを考えた時、正しい使い方のできることが必要です。こうした日常生活の常識といわれることが、たいへん劣化してきています。ひもがうまく結べない、衣服がたためないといった子が増えているのです。
その欠けている基本常識に焦点を当てた「せいかつの図鑑」という本が出版され、評判を呼んでいます。「部屋の片づけ」・「洗濯」などを絵と写真で分かり易く説明しているのも、人気の原因の一つでしょう。出版社は、このような当たり前のことは、家で自然に覚えるので、売れないだろうと考えていたようです。
確かに、親のやり方を見たり、聞いたりしているうちに、覚えたものばかりが掲載されています。ところが「子供のために購入したけれど、今の自分にふさわしいものであると思い知らされました」という親の感想もあったとのことです。
テレビで「うがい、手洗い…ばあちゃんの言う通り、ばあちゃんにはかなわない」というCMが流されています。かつて、日常生活の常識を伝え、教えてきたのはお年寄りでした。小学生の時「木もと竹うら」という言葉を祖父から聞きました。木を割るのには根元から、竹は先から割るときれいに割れるということです。昔は、こうした作業が生活の中に多かったので、たいへん役立ちました。
幼少の頃、祖父母との生活が長かった子供ほど、心優しく、礼儀正しく育っているようです。全国学力検査の平均点の高い県は、三世代同居の家庭が多いと言われています。高齢者が与える影響は計り知れないものがあるのです。その力は永年にわたる経験や失敗の成果なのであります。
社会は、高齢化を憂うるのではなく、その知恵を生かす工夫をすべきです。背筋を伸ばし、力強く生きている高齢者を多く見ます。その姿こそが、社会の活性化に繋がっていくのです。
■プロフィール
横浜国立大学卒業。秦野市立小学校教諭。秦野市立本町小学校校長。秦野市教育委員会教育長を歴任。
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