物語でめぐる金沢 『帰郷(大佛次郎自選集現代小説4)』(大佛次郎著、朝日新聞社)文・協力/金沢図書館
公金を横領し国を捨てて放浪者となった主人公、シンガポールで料亭を営んでいた女経営者、海外へ赴任していた従軍画家……太平洋戦争敗戦後の日本に帰国した彼らを軸にして、この国の変わっていく様を描いた小説です。
女経営者だった高野左衛子が夫とその愛人を住まわせているのが金沢区富岡の優雅な別荘でした。軍用道路として立派に作られていた街道から見える、逞しい生垣や温室、北に山をいただき裾には海が広がっている風景が描写されています。
左衛子の別荘は元々生糸貿易商の建てたもので、南に向いた庭の斜面には牡丹が植えられ、その向こうは青い海で大きな汽船が通るのを見渡す事が出来るという、なかなか趣のある風情です。
この小説が書かれた当時(昭和23年)、国道16号のこの部分は国道31号であり、そもそもは東京から横須賀鎮守府へ向かう道として整備されたものだったのです。富岡には横浜海軍航空隊もありました。また別荘地としても有名で、三条実美や松方正義、川合玉堂などそうそうたる面々の別荘・別宅がありました。軍事施設と風光明媚な別荘地、富岡の往年の姿がしのばれます。
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