物語でめぐる金沢 「近代金沢八景」(吉川英治、『吉川英治全集47草思堂随筆』講談社[1970]等に所収)文・協力/金沢図書館
吉川英治の代表作『宮本武蔵』の連載が始まる昭和10年に刊行された随筆集『草思堂随筆』の中の一篇です。満州事変の後、国際的緊張が高まっていたこの頃、吉川がひと夏を過ごした地が金沢八景でした。当時、軍港に近かった金沢八景の上空には軍用機が盛んに飛びかっていました。
「金沢へ来ても、僕のは、避暑ではない、赴暑だ」と言い切る吉川。安楽に過ごすのでなく、仕事に没頭しつつ体を陽に焼いて鍛えるのが目的だったようです。来るべき困難に立ち向かう気構えなのでしょうか。
横浜生まれの吉川にとって「金沢は殆ど、郷土も同じだ」と、少年時代、父親に連れられて杉田の梅林まで歩いた思い出や、金沢文庫の事なども書かれています。吉川の別の随筆集『随筆私本太平記』にも金沢文庫が出てきます。『筆間茶話』その三に、鎌倉まで歩く途中、金沢文庫で初代金沢文庫長・関靖と旧交を温め、太平記の参考資料を紹介されるエピソードがあります。
吉川の生家は久良岐郡中村根岸、現在の根岸森林公園の辺りだそうです。父親が事業に失敗し、少年時代から働き始めた彼は、19歳で上京するまで横浜で苦労を重ねたのです。
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