物語でめぐる金沢 『八景のメルヘン』治田成夫著(オーク出版サービス)文・協力/金沢図書館
著者は昭和7年、三歳の頃から金沢区に暮らし、地域の移り変わりを目撃した人です。横浜国立大学教育学部附属横浜中学校等で教鞭をとった教育者でもありました。
この本は5つの作品から成る短編集です。すべての副題に金沢区の地名や建造物の名(泥亀新田や野島、乙舳海岸、称名寺など)が付されています。私たちになじみ深い場所を舞台に、時の流れや平行世界を行き来しながら、変わっていく街並み、失われた郷土を鎮魂する幻想的な物語です。どの作品にも水と死の影がついて回るようです。
新田は造成されて大きなビルが建ち、渡し船で行き来していた運河には立派な橋がかかり、以前の海岸は埋め立てられて住宅が並び、その先に作られた人工海岸の砂もまるで違ったものになっています。主人公たちはその変化に驚き、戸惑います。
著者あとがきでは、金沢八景の町は自然を失い、その代わりに「人工の『自然』を得て生まれ変わることになった」と、昔年の金沢八景を惜しまれています。
今よりももっと自然が豊かだった頃の金沢八景が偲ばれます。
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