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公開日:2022.08.04
ハマのふ頭に「ポツンと柔道場」
子どもの個性育み半世紀 有名選手を多数輩出
「港の近くに知る人ぞ知る柔道場がある」という情報が編集室に届いた。海づり桟橋に向かうルートで、大型トラックとすれ違う交通量の多い産業道路をビクビクしながら車を走らせていると、本牧ふ頭の一角に突如、『港武館道場』と書かれた看板が現れた。
「ナゼそこ?」
「長くやっているけれど地元紙の取材は始めてだよ」と館長の峯尾昻明(たかあきら)さん(82)が迎えてくれた。道場は、港湾労働者の単身寮がある横浜港湾福利厚生協会ビルの2階。ナゼこの場所に道場があるのだろうか。
峯尾さんの指導者としての歴史がスタートしたのは、約50年前の1973年。中区のとある場所に町内会館が新築され、そこで子どもたちに柔道を教えてくれないかと話がきた。しかし4年後に突然、教室は閉鎖されることに。「子どもたちのためにも、今ここでやめるわけにはいかない」と独立を決意。当初は県警第一機動隊の道場を借りたが、門下生の保護者の協力もあり78年11月、現在の場所に「港武館道場」が開かれた。この場所での開設は、当時1280世帯が入居していた港湾団地の子どもの健全育成の意味もあったという。子どもたちへの深い愛情と港湾関係者の理解と協力があり、この地に道場が誕生したのだ。
別名「託児所」
周囲の支援もあり門下生は70〜80人に増え、小中学の全国大会の常連チームとなり、何度も優勝を飾るようになった。「港武館に通えば強くなる」という噂を聞きつけて、次第に全国から子どもたちが集まるように。当時峯尾さんは遠方から通う子どもらを港南区の自宅で寝泊りさせたり、練習後には幼児たちを自ら車で送迎した。「『峯尾の道場は託児所みたいだな』って言われてたよ」と豪快に笑う。
インターハイや全国大会、世界選手権代表選手など、国内外で活躍する選手やコーチを多数輩出。自身の4人の息子のうち、長男は桐蔭学園高校柔道部の強化コーチ、4男は柔道選手として今も活躍。4月に行われた全日本選手権大会に出場した。町内会館時代からの教え子の中にはバルセロナ五輪で金メダルを取った古賀稔彦を高校時代に唯一追い詰め、医者になった内山善康、道場に掲げられた名札にはレスリングの山本美憂・KID徳郁(故)・聖子の3兄妹や世界チャンプの飯島(成國)晶子の名前も。柔道で鍛えた足腰や精神が、他の競技でも活躍できる選手を生み出しているのだという。
型破りな指導法
「昔取材に来た記者が、子どもが駆け回っているのを見て『いつ練習が始まるんですか?』って。もう始まってるよと言ったら驚いてたな」。これが峯尾流の準備体操。全員が正座をして揃って礼をするようなことは年末年始だけ。一番大切なのは「練習中にケガをさせないこと」。一見すると遊んでいるだけのような練習の中で基礎体力や柔軟性を養いながら、ケガをしない身体の使い方を覚えさせる。バランスボールを抱えて回る受け身の練習も面白いアイデアだ。「うちの道場では、生徒を型にはめることは絶対にしない。その子の個性をよく見て良いところを伸ばすんだ」。取材中も、アルバムを見せながらかつての子どもたちの話ばかり。「みんな自分の子どもみたいなもんだからな」
コロナの前は未就学児から60代まで約20人が通っていたが、現在は自由参加で、火・木・土の午後5時30分から道場を開けている。道場の詳細は、峯尾さん【携帯電話】090・9673・5593へ。
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